15話 3ヶ月後の、変な朝

たらふく水分を呑んで寝たのに漏らさなかった。


僕はまだ自尊心を継続している。


現状確認って言う喫緊の課題をクリアした途端にさっきまでの余韻が戻って来る。


僕にしてはすっごく珍しくまるまる覚えている夢の内容。


……夢とは言っても、昔のことを思い出したり動いたりしているときに僕の子供のころの体じゃなくって、この幼女な僕の今の僕の体だったことを考えるとあらためて自意識が汚染されてる気がするなぁ……。


もうすっかり今の僕を受け入れちゃっているんだなっていうのを痛感する。

だって違和感は感じこそしたけどその程度だったんだし……。


……おまけに精神年齢的には年下のはずの子に悩みを打ち明けちゃうとかさぁ……やっぱり少しメランコリックになって弱っていたんだろうか。


きっとそうだ。


それにしても変な夢だったな。

普段夢を見ないからわからないけど、でもきっと普通じゃない夢だったはずだ。


――黒髪のアメリ、赤髪のタチアと、金髪のノーラ。


そんな今の僕をアレンジしたような姿の子たちと、目が覚めるまでのほんのひとときを過ごしただけの時間。


あともうひとり、銀髪の◆◆◆も居たけどあの子は遠目で見ただけだし……でも、気晴らしにはなったかなって思う。


「夢ってすごい」


もそもそと布団にうずくまり直す。

それに合わせて髪の毛が上に引っ張られていく、いつもの慣れ親しんだ感覚。


「でも寒い……」


寒いから出たくない……寝起きだからかな。


「うーん?」


髪の毛がわさわさする感覚を頭皮で感じつつ、顔だけ布団から抜け出して……見慣れたはずなんだけどちょっとだけ違う印象の僕の部屋を見回してみる。


……なんで僕の部屋なのに、なんだかほんのちょっとだけ違う感じがするんだろ?


夢の中にずいぶん長いこといた気がするから、かなぁ?


「……くぁ」


ま、いっか。


その内眠気が取れたらうじうじしたのもなくなるだろうし。


――そうしてベッドの上で毛布をもふもふしていた僕の周りは、家は、町は。


厚く積もった雪の中にあった。


その年、珍しく雪が積もりに積もった12月のある日。


9月のある日に眠ったはずの僕は目を覚ましたんだ。



「…………………………くちゅんっ」


寒い。

暖かい服が必要そうだ。


お酒であったかくなってぼんやりして……つまりは普段よりもうちょっと暑く感じながら寝たのか、パジャマの下のワンピースのせいでお腹までべろんとめくれ上がってたし、そのくせなぜかシャツは着てないし。


だからおへそを丸出しで、さらに下はズボンを履いていないからぱんついっちょに近い格好で毛布だけくるめて寝ていたようなもんだしなぁ。


端から見たらものすごい格好だっただろうな。

まさに幼児………………………幼女じゃないか。


「……いがいが」


……それになんだか喉も冷たくなっている感じもする。


気温……空気がとても冷えているのかな……ま、いいや、とりあえず起きよう。


そうしてベッドって言う素敵な場所を離れた僕は震えている。

ぷるぷる震えている。


「さむい……」


寒い寒い……寒い寒い寒い。


廊下を歩く1歩1歩が地獄だ。

とっても冷たいこと氷のような床。


そろそろ初秋……家の中でも靴下を履く季節になってきたなぁ。


まだまだ残暑が厳しいって言っていたのに天気予報というやつはいつも当たらない。


それに加えて寝方が悪かったから体が冷え切っていて芯から冷たい感じもするし。


「まるで体温が今までなくって」「さっきごろごろしていたときから少しずつ温まってきたみたい」な感じ。


そんなわけないけどな。

でも寒いものは寒い。


「さむっ」


歯ががちがち言って体の震えが止まらないくらいには……って体、冷えすぎじゃない?

空気とか廊下とかドアノブとかいろいろ、冷たすぎじゃない?





「ぴぃぃぃぃぃぃぃぃっ」


僕の声じゃない。

ヤカンの音だ。


コーヒー用のはフタがかたかたなるだけだけどお湯用のはちゃんと叫んでくれるから分かりやすい。


「こくこくこくこく」


光の加減かやけにホコリが目につく台所を移動しつつほどほどのあたたさのお白湯をいただく。


「こくこ……けぷ」


コップが3杯目にさしかかるころにはちょっと温かくなってきてようやく安心できる感じになってきた感覚。

お腹がたぷたぷだけど、どうせすぐに飲めるようになるんだろうからって4杯目を注いでからリビングへ。


ぼてぼて歩いているとポケットに入れていたスマホがふとももにこつこつって当たる。


……そうだった、忘れるところだった。


かがりたちに「次の休みは?」って誘われていたんだった。

でも今はまだ気持ちの整理がつかないからちょっとお断りさせてもらおう。


それよりも嘘を告白するほうが先だろうし、スジだろうし。

それを寝起きのわずかな時間で見ただろう夢の中で決めたんだから。


それで嫌われて会えなくなるのなら悲しいんだけどしょうがないこと。

問題はいつ勇気を出して「実は嘘でした」って言うかなんだ。


「……ん?」


一向に明かりがついていないことに気がつく。


……あれ、電池が切れてる?

そんなに少なかったっけ?


まぁ電池切れるの良くあることだし、後で充電しておけばいいか。

ついでにお断りの文言を考える時間稼ぎにもなるしな。


勇気を振り絞るための時間にも。


気が抜けたところでお腹がぐーっと鳴り始めた。

胃はたぽたぽのはずなのにお腹は空いているらしい。


ぺたぺた歩いて台所へ引き返す僕。


「あ」


炊いてあるお米がない。

しゃもじを持った僕は悲しくなった。


フタが開いたままだった炊飯器は悲しい冷たさ。


普段からよく炊き忘れるんだし……しょうがない、冷凍のでいいや。

ごはんごはん。


「ふーん、ふふーん」


なんとなくで音程がどっか行ってる声を出しながらレトルトのご飯のパックを開けて真ん中にしゃもじを突っ込んで半分に分けて、片方だけをお椀に入れてレンジへGO。


食欲ないから半人前で充分なんだよね。

おかげで食費がとっても浮いているのがありがたい。


そうしてできた温めすぎたせいであっつあつのご飯片手にテレビの前まで引き返す。


朝は貴重な情報収集の時間だ。

時間さえ合わせれば食べるついでに充分な情報を仕入れられるのが良いよね。


リモコンをぴっとしてニュースやってそうな局へ。


えっと、今の時間は。


「……まもなく7時です」


時計を見るまでもなく絶妙なタイミングで起きて食事にありつけるらしい。


でも今日は少し寝坊だなぁ……まぁ30分ごろごろいじいじしてたわけだけど、それでも普段5時くらいに起きる僕にとっては充分に遅い。


夢見は悪……くなかったけど、ともかくも幸先のよさそうな朝だ。

これからいろいろ考えてしなくちゃならないだろうし、ここは気合いを入れないとな。


今日はたしか金曜だっけ……前よりは曜日と日付の感覚に敏感になっているけどパソコンは別の部屋だし電源も付けてないしスマホもおやすみ。


『おはようございます』


そう言ったアナウンサーさんたちの後ろの画面には、一面の雪景色。


雪景色?

雪?


……ああ、北の方はもう初雪なのか……まだ秋だっていうのに寒そうだなぁ。


まだまだ秋はこれから。

紅葉とか栗とかいろいろ楽しい季節なんだ。


そう思った僕の耳に飛び込んできたのは――信じられない言葉だった。


『12月23日金曜日。 朝のニュースの時間は大雪の情報からです』


「――――――――――――…………」


かちゃかちゃっと箸が落ちて散らばる音。

こういうときって本当にものを取り落とすんだなぁってどこかで考えてる僕がいる。


口からは声にならない声。

でも頭は冷静にいろいろ考えている。


――朝7時、見慣れた朝のニュースキャスターさん。


「ライブ」ってあるから……ドラマとかバラエティじゃなければ……この景色は今現在、この瞬間のもの。


そしてテレビの中継で見慣れた駅前……ということは、この画面に映っているのは外国とか北の方じゃなくって僕の住んでいるところと変わらないところで。


雪を見ない年も多いくらいなのに積もっている。

現実に、多分僕の住んでる町もこうなっていておかしくない。


――雪となれば秋が深くなるか冬にしか降らないもの。


異常気象とかだったら別だけど、それだったら「今年も寒いですねー」じゃなくて「異常気象で大雪!!」っていうテロップが出るはず。


なのにそんなことはなくて――12月、23日。

クリスマスイブの、前の日。


そう、上の隅の方にテロップではっきりと書いてある。


「……ありえ、ない」


そうだ、ありえない。


こんなことはあり得るはずがないんだ。


12月23日。


……それは、ありえない。


『先日から降り続いている雪のおかげで、今日もまた一段とこの都心でさえも……ご覧ください! 25センチの積雪を観測しています!』


わざとらしく長靴を履いたリポーターさんがずぼっと雪の中に足をつっこみ、同じように突き刺した定規の目盛りをアップで映している。


――なんで。


なんで9月が12月なんだ?

12月って9月だったっけ?


『予報のとおりですとこの天気はまだしばらく続くようです。 ということは明日のクリスマスイブ、そして明後日のクリスマスは数年ぶりのホワイトクリスマスというものになりそうですねー』

『そうですねぇ、今年のクリスマスは素敵なものに……』


『……はい、それではまず気になる明日と明後日の降雪量ですが……』


ぴっとチャンネルを変えてみる。


『この大雪で転倒したという通報が昨晩だけで……』


おなじ。


もういっかい、もう2回。


『まぁ例の事件のおかげで外出を控える人も多いようですので一概に悪いとは……』


………………おんなじ。


どの局もこぞっておんなじようなことを言っていて、映している。


――――――これは、現実。


それは分かった。


理解はできて納得はできないけど無理やりに納得するしかない。


けど……なんだ、これ。


だってクリスマスなんて……3ヶ月も先のはずでしょ?


予定はまだ決まっていないけど「クリスマスパーティーとかしよう」ってみんなが言っていた、あの遠い未来のことじゃないか。


なのにどうして今は3ヶ月後なんだ。


「……ずず」


落ち着かなかった僕はいつの間にかに料理用のお酒を出して呑んでいたらしい。


しばらくしてからそれに気がつくくらいには……僕にしては珍しく動揺ってのをしていた。



「うーん……」


立ち尽くしていた僕は静かに再起動した。


これ……受け入れるしかないかなぁって。

明日がクリスマスの前の日なイブ、明後日がクリスマスになっちゃってるってこと。


今の状況で否定できるものがなにひとつ無い以上には受け入れなきゃならない。


……魔法さんが散々いろいろしてきたおかげで結構耐性がついてきた気がする。


窓の外も、白で包まれた世界だった。


まっしろ。


光自体は暗めなはずなのにまぶしい白。

1階の窓からだと本気で雪しか見えない様子。


やわらかそうな雪がふんわりとこんもりと、狭い庭の地面や塀の上やすっかり枯れている木の枝に積もっている。


それも積もりすぎているから2階に上ってみてようやく白以外の色がはっきり見えるっていう具合だ。


……見た感じ50センチくらい行っていそう……こんな雪初めて見た。


さすがに道は除雪されているらしく歩くこと自体は……あ、うちの前も少しだけやってもらっているのはお隣さんかも。


お礼に行かないとなぁ……もう会って話しても平気だし。


「……しろい」


手のあとがついちゃった窓……ちっちゃいもみじがたに曇っていたガラスがくっきりしているし、せっかくあったかくなっていた手のひらがまた冷たくなっている……から離れると、低い空からふわふわと舞い降りる雪が見えてちょっと幻想的。


「きれい」


普通に秋を過ごして普通に冬になったんだったら楽しめただろうに。


充電ケーブルを繋いだばっかりでまだぴくりとも動かないスマホさんは戦力外として、パソコンさんのほうは普通に使えた。


かちかちとしばらくネットの記事とかを見ても……やっぱり今日が12月に属しているっていうのは本当のことらしい。


だからこれほどまでに体が冷え切っていたわけで、床も空気も冷たいわけだ。

そりゃあ真夏の格好をしたまま一切暖房とかしない家の中で、寝ていれば……ねぇ?


さっきエアコンも入れたけどまだまだ寒い。

というかまだ風が温かくなってない。


……うん、ヒーターとか出したほうがよさそうだな、すぐには温まらないだろうし。


季節としては……雪が積もるほどの真冬。

それも今日まで3ヶ月間一切の空調をしてこなかったことになるわけで。


「うぅ……さむい」


僕は何着ももこもこと着込んだ上で毛布にくるまっている。

そうして何かがあれば、それを引きずっての大移動だ。


だってこうじゃないと寒くてしょうがないもん。


……今までよく風邪とか引かなかったなぁ……というかよく死ななかったなぁ。


これもまた魔法さんのせいなんだから、そもそも3ヶ月動かずに寝たまんまで生きていたこと自体が魔法ってやつなんだろうけども。


まさか僕自身が……タイムスリップとかでいいんだろうか……するとは思ってみなかったけど、とりあえずは事実として受け止める。


僕視点で一昨日、山からの帰りにテンションが上がったおかげで秋ものを買っておいてまだぎりぎり外に出られる格好が残っているのが幸い。


あぁいやそのせいで飛川さんにもバレるハメになったんだし……まぁあの日の前からこの姿を何回も見られてたってわかっているから、いずれあぁなるっていうのは変わらなかったんだろうけど。


でもそのおかげでこうして、寒いんだけど着ぶくれて毛布を引きずっていれば温かさと重さを両立させられる格好ができるし……うん、過ぎたことはしょうがない。


それにバレたおかげで魔法さんについてよりはっきりとわかることになったから、むしろ早めにバレてよかったんだろう。


じゃなきゃ今でもよくわからないまま、なんにもバレていないって思ったままで今までどおりに何も知らないで過ごしていただろうし。


それはそれで怖いよね。

知らないって恐い。


……なんだかイマイチ魔法さんが僕に求める方向性がはっきりしてこないから、これが呪いなのかSF的な何かなのか、ファンタジックでオーソドックスな魔法ってやつなのか超能力なのか。


「……ゆめ」


明晰夢的な――あのなにか。


僕の過去を無理やり見せられるっていう毎度おなじみの悪夢に続いての「もし嘘をつかずにお隣さんに即バレしていたら?」っていう妄想とみんなと会っていた記憶がごっちゃになっていた場面。


成長したさつきさんっていう……妄想でしかない存在も出てきて。


そのへんからだんだんとクリアな視界と音が出てきたと思ったら、今度はまぶしくなってからのもっとリアルな、限りなく現実に近いような展開。


そして黒あめさんと赤タチアさんと金ノーラさん。


そんな不可思議な夢を見ていたせいで現実感のない目覚めになった。

まぁそんなのは寒さと日付と冷蔵庫のせいでさっき吹っ飛んたけど……。


で。


3ヶ月。


僕は……どうなってたんだろう。

普通に寝たまんまだったらこうはならないはずだ。


魔法さんが僕の体にも何かをして……タイムスリップとかコールドスリープみたいなものとか冬眠みたいな現象が起きたんだって思っておく。


多分あの不思議な明晰夢も魔法さんの仕業。


でも……今度は何が原因でこうなったのか、皆目見当がつかない。


特別に何をしたわけでもなく、今までのように誰かと接触したり物理的に僕の見た目を変えようとしたわけでもないし……。


「うーん」


心当たりは思いっ切りある。


けど心当たりのある原因がまとめて同時にいくつも起きたもんだから判断に難しいっていう感じなんだ。


でも、時間が過ぎたのは確か。


だって僕、あまりにも寒かったからさっきお風呂に入ったついでに鏡でじっくりと見てきたけど……激やせしてたから。


顔もこけてるっていうか眉のところのホネまではっきり見えるくらいになっていたし、いつにも増して顔色も悪くって体も全体的にホネホネしていたし。


なんか全部巻き戻されちゃった感。

そう言えば最初にこの体になったときもこんな感覚だったなぁって思い出す。


せっかく半年掛けてちょっとは肉付き良くなってきたのになぁ……また食べ直しだ。


「おっとと……」


ちょっとふらふらするし体力も落ちているんだろう。


だって3ヶ月だもんね。


何ヶ月も寝たまんまで雪の日に目を覚ますとかものすごくレアな体験してるなって思っておこうっと。


でも僕はどうして目が覚めなかったのか。

3ヶ月も意識が戻らなかったのか。


いくらアルコールをたくさん飲んじゃったからって言っても丸1日以上寝っぱなしっていうのはありえない。


いくら死んだりしなかったとしても1年の4分の1も意識がなかったっていうのは……正直に言って恐ろしい。


……本能的な恐怖って感じの、痛いのと気持ち悪いのと得体の知れないナニカが一緒くたになって襲ってくる感じがこみ上げてくるし。


「寝ているあいだは死んでいるようなもの」っていうのは誰かが言ったことらしいけど、3ヶ月も意識がなかったっていうのを自覚しちゃった今となっては、この3ヶ月っていう時間限定で「僕が死んでいた」って考えるほうがしっくりとくるっていうか、すとんと落ちる。


「……死んでいた、かぁ……」


口にしてみても現実感の無い言葉。


死。


そう言えばあの夢でもそう思ったっけ……どこだったかは忘れたけど。


でも、もし仮にこの期間だけ僕の魂的なものが「あの世」とやらに行っていたら?


それならきっと天国寄りなんだろう。

あんな綺麗な風景が地獄なはずないもんね。


僕はこういうのをぜんっぜん信じてなかったんだけど実際に魔法さんにお目にかかってるし否定できなくなっているんだ。


あの夢の後半。


きれいな空と海と、そこそこに満足できる大きさの島。

あたたかくって気持ちよくって、穏やかで。


僕のことをぜんぶ知っていて受け入れてくれる人がいる、あの世界。


都合良すぎるってあのときも思ってたけど……あれが「あの世」っていうんなら納得できるかも。


あの世があんな感じなら死ぬのもあんまり怖く……いやぁもちろん怖いけど「悪くはないかな」って思ってしまうのもムリはない。


あそこのどこかに母さんと父さんとかがいるんだとしたらなおさらだ。


死んでた可能性があるけど生き返ったっぽいからにはまた死にたくはない。


せっかく女の子の体に慣れて女の子同士の話し方とかにも慣れてきて、話題とかも僕から振れるようになったのに……そんなのもったいないじゃない。


「んー」


でもやっぱりいくら考えても魔法さんの今回の冬眠魔法的なものがかかった理由はさっぱりだ。


ついでになぜか激やせしていたのも分からないし、トイレしてないのも分からないし体もきちゃなくなったりしてなかったのもまた分からない。


トイレにも行っていないのに起きてしばらく平気だったもんなぁ……お酒の残ってる感覚も無いし。


「うーん」


昨日の夕方から夜にかけてっていう直前の行動じゃなくもっと前のことを考えてみたとしたって、外に出て魔法さんを働かせる実験をしてみたからといって、それだけで3ヶ月も寝ることになるなんて到底思えないし理屈も通らないだろうし。


だって魔法さんのすることって言えば僕をこの幼女にして髪の毛切らせないで、あと前の僕とごっちゃにしてこの情報社会な現代社会でも無難に生きて行けるって言う都合良すぎるようにする程度だし?


あるいはもっと前のできごと……いろいろと確かめていたときのなにかに反応した?


それともお隣さんとかの……前の僕を知っている人に会ったこと?

遠出をしたこと?


家から離れたこと?

それとも山に登ったこと?


それとも……中学生のあの子たちと外で一緒にいる時間が増えすぎたせい。


なんて思いたくはないけど、僕が当時意識しなかっただけで……不特定多数の人たちとすれ違ったり近くでしばらく隣同士になったりしていた内の誰かの何かに反応して?


いろいろ連れ回されたりして訪れた、今まで僕が知ってはいたけど行ったことはなかったような、そういう場所に反応して?


……考えれば考えるほどに何もかもが怪しくなってきてそのどれもがもっともらしくなるんだけど、同時にどれも説得力に欠ける気もしてくる。


つまりは堂々巡りだ。


「……さむい」


もこっと羽織った僕。


真夏から真冬でこの体になったのは春だから冬物は持っていない。

だから家用のものはもちろん外行きのものも手に入れておかないとだ。


残念ながら……コートとかの冬物は高いのに男のときに持っていた冬服は使えない。

だって羽織るものでもぶかぶかなんだから下は当然合わないわけで、つまりは下半身が冷えるのには変わらない。


だから今の僕に合った服を手に入れる必要がある。

だけど今はクリスマスの前っていうこれまた絶妙なタイミング。


もう何日か早く起きてさえいればっていうのは贅沢じゃないだろう。

クリスマス前だから、通販だと注文したのが届くのは何日か後だろうし……。


「さむっ」


昼……というか朝だけど、それでこれだ、夜はもっと冷えるはず。

それまでに風邪でも引いたら困るしさっさと買ってこないとかな。


……きっと大丈夫。


半年……のうちの2ヶ月くらい毎日のように出かけて何かを踏んじゃったんだから、たかが駅前にぱっと服を買いに行くくらい何ともないはずだもん。


……この世界が、本当に僕が知っている世界なのか。

それを確かめなきゃ、ここがまだ夢の中かもって思い続けるだろうしさ。

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