story of my life

@yuuuuu112

story of my life

昨日未明さくじつみめいに男性が刺されたと通報がありました。警察が捜査に当たっていますが、未だ犯人逮捕には至っていない状態です。次のニュースです」

 そんなニュースが薄らと聞こえてきて物騒ぶっそうな世の中になっちゃったなぁと考える

 昨日から何故か自分の意思で目を開けることも話す事も出来なくなっている が、音だけが聞こえてくる

 周りがなんだか騒がしい、たくさんの人の声がする

 一体ここはどこなんだ

 何もわからないことに恐怖きょうふを感じる

 とりあえず働かない頭で何があったのかを思い出そうとしてみる

 何があった?何もおかしな事は無かったはず、一体何が・・・

 思い出した、さっきのニュースは自分の事だ

 昨日バイト先で女の子が暴漢ぼうかんに襲われそうになっていたところを助けに入った

 そして暴漢と揉み合いになり刺されたのだ

 刺された時は嫌に冷静で

 ああ、このまま死ぬんだなとどこか他人事のように考えていた事、女の子は助けられただろうか、小さな頃から憧れたヒーローに近づけただろうか、という3つのことを考えながら自分は意識を失った

 目も開かず身体も動かない事に違和感があったが納得できた

 人は死の直前、最後まで残る感覚は聴覚だという、なら自分はもうすぐ死ぬのだろう

 ろくな人生を歩んでいなかったからこの最期は仕方がない

 そう言い聞かせるように頭の中で考える

 意識が消える瞬間まで言い聞かせるつもりだったが、ふと

【人生をやり直せたら良かったのに】と考えてしまった

 最後に後悔こうかいを残し僕の人生は幕を閉じた


 軽いまぶたを上にあげてみると周りの景色が見えた

 久しぶりに目を開けた気がする なのに目が霞むことも痛くなるような事も無い

 1日くらいだから大丈夫だったのかそれともここが死後の世界というやつなのかと考えていたが見える景色に見覚えがある

 僕が学生の時に住んでいた家の自分の部屋だ

 走馬灯そうまとうかと思うがあまりにも進みが遅い

 走馬灯なのになんで部屋を眺めているだけなんだ

 流石にそこまでつまらない人生では無かっただろうと心の中で思いながら部屋を見渡していると家族が入ってきた

「今日学校は?」

 そう言われ疑問符ぎもんふが頭に浮かぶ

 学校・・・?

 そういえば部屋の中に僕が中学生の時に着ていた制服があった

 もう卒業してるしそもそも死んでるはず

 走馬灯ってゆっくり過去を振り返るのかな

 だとしたらこの後返事をしなくて怒られる

 過去かこ記憶きおくを引っ張り出し身構みがまえるが怒られることはなかった

 あれ、記憶と違う

 その後も疑問に思いながら1日が終わった

 もう顔も思い出すことが無くなっていた中学時代のクラスメイトと久しぶりに会った

 記憶上の性格とやや違っていたり顔が違っていたりしていたが、実際の記憶と自力で思い出せないほど深い位置にある記憶は違うのだろうと無理やり納得し、その日は眠りについた


 2日目の朝が来た

 あまり深く考えずに過ごす事にした

 もし本当にこれが走馬灯で人生をふりかえってい

 るなら何をしても結末は変わらないだろう

 今は楽しかった時をまた楽しもうと少しワクワク

 していた


 7日目

 少しだけ違和感が生まれていた

 走馬灯なら間違えた問題は間違えたままで出会う

 人間も同じはず

 だが何故か昔間違えた問題に答え正解を貰い

 昔とクラスは同じだが過去にはいなかった人がい

 たりした

 僕が死に近づくにつれて記憶がおかしくなってい

 るのだろうか


 30日目

 確信を持って言えることがある

 この世界は走馬灯ではなく僕の意思で自由に動く

 事が出来る世界だ

 そして僕はいわゆる一巡前いちじゅんまえ

 世界の記憶を持っている

 死ぬ前の

【人生をやり直したい】

 という願いを神様が叶えてくれたのかもしれない

 この人生では必ず誰もがうらやむほど幸せ

 になろうと決意し

 笑みをこぼしながら帰路きろに着いた


 僕が2度目の人生を再び歩み始めてから数年が経った

 今は高校3年生だ

 過去で諦めた事や出来なかった事をこの数年間である程度は出来た

 女性経験すら一度もなかった僕が今では経験豊富に

 過去に遊んでいたゲームがこちらでは新しくリリースされ過去の記憶を使って誰よりも上手になった

 好きで弾いていたギターも中学3年頃には過去の自分をあっさりと追い抜くほどの技術や知識を身につけた

 今の自分はまるで漫画や小説の主人公だといい気分だった

 だが高校生になりわかった事がある

 知識や技術は明らかに過去の自分よりも上なはずだが通っている学校も出会う人も何ひとつとして変わっていない

 大きく未来が変わりそうな事をしようとすると何かに引っ張られているように大幅な軌道修正きどうしゅうせいが行われる

 過去で賞金が出る大会が行われるほど大人気だったゲームはこちらではサービスが終了

 ギターも動画投稿等を行ったがクラスで少し話題になったきり誰にも見向きもされなくなった

 神は何が不満なんだ

 上手くいくようにやり直させたのでは無かったのか

 そんな不満をぶつぶつ呟きながらも過去と同じ方向へ進んでいく自分がいた


 そして僕は23歳になった

 結局なにも変えることが出来ずに過去の自分と同じ年齢になってしまい絶望した

 なんでやり直させたんだ

 ここまで来たのに何も変えられなかった

 正義感せいぎかんだけは立派な未熟者みじゅくものの僕がまた出来上がった

 過去と同じ場所で同じようにバイトとして働く日々

 何年も見た飽きる風景

 ふと女の子が男に手を引っ張られ助けを求めている姿が目に入った

 その光景に見覚えがあった

 ああ、僕はここで死ぬんだ

 やり直した所で過去は変わらない

 きっとここで抗おうと助けに行かなくても僕は何かしらで命を落とすのだろう

 それなら、どうせ死ぬなら、と女の子を助けに向かう

 怖がりで臆病おくびょうだけど最後くらいはかっこよくいたいと思いながら女の子の手を引いて助ける

 逆上ぎゃくじょうした男は包丁を取り出しこちらに向かってくる

 覚悟かくごして目をつぶる

 しかしその瞬間僕の名前を呼ぶ声が聞こえた

 驚いて目を開けるとそこにいたのは友人だった

 用があり僕のバイト先の近くを通ろうとしたところで僕の姿と男の後ろ姿が見えたらしい

 男の後ろ手に包丁ほうちょうがあるのが見えすぐに警察へと通報し

 男の気をそらそうと僕の名前を大声で呼んでくれたのだと知った

 男は駆けつけた警察官に連行されていき

 女の子は僕に感謝かんしゃを伝えるとその場を後にした

 僕は今になって恐怖で足がすくみその場に倒れ込んだ

 僕と友人はその姿を見て笑いあった


 23歳で命を落とすはずだった人生が変わった

 今日は僕が本当にやりたい事に近づくための一歩を踏み出す日

 楽器を背負い電車に乗り込んだ

 電車の中で自分の人生を思い出していた

 彼女もいない、お金もないしゲームも上手くない、知名度も無い、やり直した所で何も変わらなかったけど、変わらずに持っていたものがあり、変わらなくてよかったと思えた

 そんなことに気づくのに46年もかかったがもしかしたらそれを気づかせるためにもう一度自分として人生をやり直させたのかもしれない

 これから僕は本当に先のわからない未来へと歩いていく

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