エピローグ

 昔、写真を撮られると魂を抜かれるという迷信があったらしい。

 もしそれが本当ならスーパーモデルはきっとカニ漁師と肩を並べるくらい危険な仕事となるだろう。

 だがそんな事はなく今でもモデルは女子に憧れの職業となっている。

 幽は大丈夫だったのか。ちゃんと成仏できたのかな。

 青森であのツーショットを撮った後、幽は消えた。

 寂しさはあったがそれよりも彼女を少しは助けられてよかったと思う気持ちが強かった。

 帰ってきてすぐ僕は家中を探して初めて撮った幽の写真を見つけた。

 その時も幽は綺麗だった。

 あれからもう一年近く経つ。

 すっかり僕の致命傷はなくなっていた。

 その代わりといってはなんだが人の写真を撮る時、いつも幽の事を思い出してしまう。

 僕は初恋を引きずるタイプなのだと今さら気づいた。

 それでも幽はもういない。

 きっとどこかで幸せに生きているはずだ。



 ある日僕はすっかり日課となっている散歩に出かけた。流石に朝の4時に出る気はないが。

「あの、写真をお願いしてもいいですか?」

 突然、赤ちゃん連れの三人家族に話しかけられた。

「もちろんですよ。」

 三人とも幸せそうで赤ちゃんは穏やかに笑っている。

「可愛い赤ちゃんですね。」

僕は思ったことをそのまま言っていた。

「そうでしょう!今年で1歳なんですよ!もう、とにかく可愛くて、だから家族写真を撮りまくろうと思ってます。」

その母親らしき人は目を輝かせながら言った。幸せそうに話す女性は本当にこの子の事が好きそうだった。

「はっ!すみません。初対面なのに。」

「いえいえ。大丈夫ですよ。」


 青い青い空が今日も輝いている。

「では、撮ります。」

「はいチーズ。」


 きっと今年の夏も暑くなるだろう。

 カシャ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アオを遺す ch-neko @ch-neko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ