第9話 目的
飛行機に乗るのは思っていたよりも簡単で驚いた。引き止められたらどうしようかと心配していたがそんなこともなく、係員がすんなり通してくれた。
僕らは飛行機の準備ができるのを椅子に座って待っていた。
すると、幽が震えているように見えた。
「怖いのか?」
「そんなことないよっ!……ただ嫌なことを思い出しただけ!」
「……大丈夫だ。僕だって怖くないわけじゃない。」
僕は触れることのできない幽の手を握った。当たり前だがなんの温もりも感じない。
「ははーん、やっぱり君も怖いんだね〜」
落ち着いたのかわからないがいつもの減らず口に戻っていた。
「お前は例え墜落しても死なないだろ。」
「いやいや、かもしれない運転は大事でしょ〜」
「運転しないくせに。」
そんなくだらない会話をしながら僕らは飛行機に乗った。
幸いなことに隣の席は空いていた。隣で独り言を言っている中二病に見られる心配はなさそうだ。
初めての飛行機で運悪く墜落なんてせず、僕らはあっという間の3時間を満喫した。
そして僕らは空港を後にし、タクシーを拾って目的地へと向かった。そして母親に連絡をする。
時間が経てば経つほど辺りが緑で茂っている、随分田舎に住んでいるのだなと僕は思った。
そう思っているうちに目的地に着いた。タクシー料金の高さに驚きつつ僕は幽の祖母の家を見る。
僕が住んでいる所も田舎だけど、それ以上のほぼ森の中だとどう生活しているのか気になった。
そんな事は置いておいて、僕は緊張混じりにチャイムを押した。
ピーンポーンー
こんな山の中に似合わない間の抜けた音で笑いそうになった。
「はいはい、誰でしょうか?」
おっとりとした穏やかそうな人だった。幽には全然似てなさそうだな。
「こんにちは。僕は葵結夏さんの友達で渡したい物があって来ました。」
ほんの一瞬、幽の祖母は悲しそうな顔をした気がする。
「それはわざわざありがとうございます。ぜひ、上がっていってください。」
僕らはまさしく山小屋という言葉がしっくりする家に上がった。幽は口を開かず、祖母をじっくり見ていた。
家に上がると幽の父親らしき人の仏壇が置かれているのが見えた。
「ゆうちゃんの事は聞いています。本当になんと言えばいいのか。心苦しい限りです。」
幽の祖母はキンキンに冷えた麦茶を渡してくれた。
「私がもっと早く気づいてやれればよかったのに。」
そうは言ってもその足腰で香川に来るなんてとても無理そうに見えた。
「あんな状況であの子の写真も残っていなくてね。」
そう、だったんだな。
「それで渡したい物とはなんですの?」
僕は向日葵畑で撮った幽の写真を出した。考えていなかったがなんて事情を説明すればいいのだろう…
「えーっと、その、実は一度ゆうかさんの写真を撮っていてそれは親族に渡すべきかと思いまして。」
なんて怪しさ満点の説明だろう。
「飾るにしても遺影にしてもいいので好きに使ってください。その方がゆうかさんも喜ぶと思います。」
幽の祖母は目を見開いて黙っていた。
蝉の声だけが聞こえる。
そして、そっと呟いた。
「本当にゆうちゃんなの…見ないうちにこんな大きくなっていたんだねぇ。」
まるで今の幽が見えているようだった。
幽の祖母は写真を撫でながら見ていた。その目には涙が溜まっている。
「……なんてお礼を言ったらいいのか。ありがとうございます。きっと息子も喜ぶでしょう。」
幽の父親らしき人の仏壇の隣に幽の遺影が置かれていた。
よかった。これで…
僕らはお礼の野菜を持って家を出る。幽は黙って泣いていた。
僕は幽が泣き止むまで近くにあったベンチで休み、今まで起こった事を振り返っていた。
この夏休みは騒がしくとても楽しかったな。幽のおかげで自分が変われた事を実感する。すると幽が急に大声を上げた。
「ミッション完了!でかした少年!」
またそのノリか。
「そりゃどうも、お前はただ撮られるだけだったけどな。」
「そんなことない!ちゃんと仕事したよ!」
気が付くといつもの自由奔放な幽に戻っていた。相変わらずうるさいな。
「よし!じゃあ、最後にツーショット撮ろう!」
「あぁ、分かったよ。」
僕は持ってきていたカメラを出した。
僕らは青い空をバックに二人で笑う。
「「はいチーズ。!」」
カシャ。
本当にありがとう_________。
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