第8話 出発

 さて、なんと説明しようか。

「母さんその、話があるんだ。」

 僕は母さんに友達と青森へ行きたいことを説明した。なぜこんなに緊張しているかと言うと、その理由は父にある。

 父は僕が小学生の頃、飛行機事故で亡くなっている。そのせいで母さんは飛行機がトラウマになった。

 それでも僕をここまで育てた母さんには感謝も、尊敬もしている。

 だが、僕は今まで旅行に行ったことがない。果たして青森へ行く事を母さんは許してくれるのだろうか。

「それは本当に大事な用なの?」

「うん…友達の為なんだ。」

 僕はしっかりと母さんの目を見る。

 心音がうるさくなる……

「………なら、しょうがないわね。ただし、乗る前と後にはちゃんと連絡すること。」

 正直、この夏休みで一番驚いたかもしれない。あんなに頑なに旅行へ行かせることを拒んでいた母さんがこうもあっさり許すなんて。

「ほ、ほんとにいいの?」

「何度も言わせない。そんな真剣に言われたら何を言っても無駄でしょ。」

 僕はただただ母さんの優しさに感謝するしかなかった。

「ありがとう。母さん。」

「後悔がないようにね。」

 最初にして最大の難所を越えることができた。よし!あとは準備だけだ。

「結構楽しそうだね!遺人ー」

「なんせ、初めての旅行だからな。」

 こんな状況で悪いが喜んでいる自分がいた。

 たかが日帰り旅行かもしれない、それでも僕にとっては初めてのことだ。誰でも初めての経験には気分が上がるものだろう。

 僕は高まる気持ちを抑え準備を終わらせた。そして、一つ疑問が浮かんではすぐに沈んだ。


 ──幽は成仏してしまうのでないのか。──


 確かに幽は遺影を撮って欲しいと頼んだ。それが済んだ今、すぐにでも消えてしまうのではと思った。

 僕は自分らしくない寂しさを感じてしまった。

 だけと、今は幽の望みを叶える事が最優先だ。



 次の日僕たちは出発する。

「気を付けて行くのよ。」

「うん、ありがとう。」

「母さん、遺人が元気になって嬉しいわ。そのお友達のおかげかしら。ぜひ今度会わせてね。」

「…考えとく。」

 幽が隣でニヤついている。まったく。

「ウチのおかげだってさ〜」

 大体合っていたのでさらにムカついた。

「じゃあ、行ってきます。」

「えぇ。いってらっしゃい。」

 母さんが手を振り僕は振り返す。ついでに幽も大きく振っていた。

 今思えばかなり大げさで恥ずかしい見送りだったと思っている。初めてだと何が正しいのかなんてわからないものなんだな。

 だけど、不思議と嫌な気はしなかった。

 母さんはこの見送りを父にもやっていたような気がして懐かしさを感じたからだ。

「優しいお母さんだね〜」

 幽が唐突に言う。僕は言葉に詰まった。

 少しだけ考えて答える。

「次は良い親に恵まれるといいな。」

「うん、ありがとう。」

………


「でもウチのお母さんも良い親だったよ。ただ、初めてでどうすればいいのかわからなかっただけだと思う。」

「優しいんだな。」

「えへへ、そうでしょ〜」

 本当におかしな幽霊だ。普通、誰かを恨んで幽霊になるものだと勝手に思い込んでいた。

 そうして、僕らは空港へと向かった。

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