第6話 青い思い出と今
ちょうど一年前のあの日、僕はカメラを空に向けて写真を撮った。
次の瞬間、少女と目があう。
カシャ、、、バチッ。
頭の中が真っ黒に塗りつぶされるようだった。頭が痛い。
僕が初めてユウを撮った日、僕の上の階に住んでいた
そしてその母親が逮捕されたらしい。
どうして亡くなってしまったなんて僕には想像すらできないだろう。いや、考える権利なんてない。
一度だけ母親に連れられた彼女を見たことがある。
違和感はあったんだ。
歳の割に痩せ細っていた事や上の階では異臭問題が上がっていたことなど、今思えばいくらでもあった。
だが気のせいだと思い、気にしなかった。
あの時少しでも心配していれば何か変わっていたのかもしれない。
後悔してもどうしようもならないなんて頭では分かっている。それでも…
写真を撮った、僕は3日寝込んだ。彼女の方が苦しかっただろうに。
その時の記憶は曖昧だ。
僕は彼女の写真をどうしたんだろう。その時から僕は人の写真が撮れなくなっていた。
助ける事ができなかった彼女が今僕の目の前で自分の遺影を望んでいる。
「じゃあ撮るぞ。」
「うん、オッケー。」
運命とは不思議なものだ。なぜ僕の前に現れたのだろうか。
今は関係ない。僕はただ幽が生きた証を遺す事に集中しよう。僕は深呼吸をした。
スーハー……
「大丈夫、君ならできるよ。」
幽が優しく僕に声をかけた。
息を整える。
何もできなかった事を悔やんでもあの日には戻れない。なら、今してやればいいんだ。
集中する。
手の震えなんて気にしない。気にならない。
僕はゆっくりシャッターを押した。
…カシャ。
「やった。」
僕はついに幽を撮る事ができた。
なんのブレもない、幽の綺麗な笑顔が遺った写真。
嬉しさがこみ上げてくる。涙が出そうになった次の瞬間。幽が雰囲気をぶち壊した。
「やったーーー!ついに!ついに撮れたんだね!」
幽は僕に触れることが出来ないのに抱きついてきた。そして涙をボロボロこぼしている。幽霊でも泣くんだと思った。
おかげで僕の涙は引っ込んだ。
だがこの喜びをしっかりと噛みしめる。
「で、その写真はどうするんだ。」
「ふふん、それはねー」
「おばあちゃんにあげるんだ!」
どうやら父方の祖母に渡したいらしい。僕は幽の母親のこともあり心配になったが、あの様子なら大丈夫そうだ。
「祖母はどこにいるんだ?」
「青森県!」
はぁ…慣れたと思っていたが最後の最後で面倒くささが爆発した。
ここは香川県だ。
飛行機で何時間かかるのだろうか。
とにかく家に帰ろう。どうするか考えるのはその後だ。僕は希望と絶望を同時に抱え、再び電車に乗った。
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