第3話 朝の散歩

 

昨日は散々でいつもより早く寝てしまった。

何だか騒がしい。

 僕は目を開けようとする。だがその動作の途中で止まった。もしかすると、昨日のヤツは僕の夏バテが起こした幻覚かもしれない…

 それはそれで一人ですっ転んだと思うと恥ずかしい。だが、そんな恥ずかしさを感じる暇はなかった。

ヤツがいたのだ。

 ヤツは昨日から半ば強引に家に住み憑いている。今も呑気にふわふわ浮かんで僕にモーニングコールをしていた。

「おっはよー!今日も写真日和だね!」

「そんなこと言ったって僕は撮らないからな。」

そんな会話をした、、、午前4時。

「起こすの早くないか?」

 今は夏休み。いつもなら12時起床が当たり前な僕にとってこの時間帯は未知の世界だった。

「いいじゃん、早朝に散歩するのは楽しいよ!」

おばあちゃんかよ。

「ということで、朝のお散歩へレッツゴー!」


 僕は幽に対して諦めの感情が湧きつつある。渋々僕は外に出た。

 こういう時に犬でも飼っていたらもっとやる気が出たのかもしてない。

だが、僕が連れているのは犬ではない…幽霊だ。

 誰もいない町中を歩いているといつもなら眠っているユウゲンチョウやツユクサの花が目を覚ましていた。実物で見るとやはり綺麗だった。

 もちろん、写真もしっかり撮る。


 新しい発見に感動しつつほんの少しだが幽に感謝した。やる気がなかった散歩は意外と楽しいものとなりそうだ。

「わっ!朝日が登ってきた!」

 本当だ。また新しい発見してカメラを向ける。すると、幽が僕の目の前に立ってきた。

「朝日をバックにしたウチ。映えるでしょう〜」

「撮ってほしそうなのがバレバレだぞ。」

「ものは試しだよ〜いいから撮って!」

 早朝にいいものが撮れた礼と思い、僕は幽に狙いを定めた。いつもの様に震えるかと思われた手は、、、震えなかった。

 カシャ。


なぜ、なんだろう。

 震え、なかった。僕が悩んでいた事が彼女によっていとも簡単に解決された。

 あ、ちなみに写真は逆光がすさまじく、また誰だか判別出来ないものとなった。きっと幽は納得していないだろう。

「遺影にはならないけどこれはこれでいいね!」

思いの他、幽は嬉しそうである。

 自分の撮った写真が誰かに喜んでもらったのは久しぶりだった。嬉しい。

 そうだ、僕はこの表情が好きだったんだ。

 どうして忘れていたんだろう…

「あのさ…もう一度撮ってもいい?」

 こんな事自分でも言うなんて信じられなかった。引っ込めようとしたが出してしまった言霊はもう、戻らない。

ほら、またあの輝かしい目を向けてきている。

「もちろん!やっとその気になってくれたんだ!」

「いいから早く撮るぞ。」

 僕はカメラを向けた。幽がカメラ目線でこちらを見る。震える、手が、、、


 駄目だった。

「そんなに落ち込まなくてもいいじゃん。」

 帰り道、僕はこんな幽霊に心配されるほど落ち込んでいたのか。

一度成功したことが二度も成功するとは限らない。だけど、一度はうまくいったんだ。

そう、一度は…

「次こそ!次はきっと上手くいくよ。」

 ふと、僕は幽に興味を持った。こんな事、普段なら絶対に思わないだろう。

 だが彼女を知れば、僕が自由に写真を撮れる日が来るかもしれない。

 たった一日で人は変わるものなのか。

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