第2話 悪霊退散

 状況を整理しよう。

 この人間らしさありまくりで恐ろしさ皆無の幽霊は自分の遺影を撮って欲しいと頼んできている………

「嫌だっ。」

「え?なんて〜?」

「絶対に嫌だ!」

 僕は力強く断った。そもそもできるわけがない…

「そんな、な、なんでさ、君、写真撮るの好きそうなのに。」

 さっきとは打って変わって悲しそうな顔で僕を見つめる。

「……僕、人の写真が撮れないんだ。」

 自分で改めて言うのは苦痛だった。

「そっか…ならしょうがない。」

 よかった、これでこの幽霊から逃げられる。

僕は彼女に少し申し訳ないと感じつつ安堵した。

「…これだけはしたくなかったけど。」

 僕だって理由もわからずで悔しい。

 去っていくかと思われた幽霊は僕の耳元に近寄ってきて…


「悪霊退散滅鬼言語道断風林火山………!」

「ぎゃっ。」

 何だこいつ…幽霊のくせにデタラメな念仏を鼓膜が破れそうなほどの声量で唱えてきた。幽霊のくせにどこからそんな声量が出るんだ。

あと、悪霊はおまえだ。

「ふっふっふ、どうだ!願いを叶えてくれないと一生このままだぞ〜」

 前言撤回、恐ろしさ皆無なんて嘘だ。こいつは恐ろしい幽霊だ。

そう思っている最中も彼女の念仏は止まらない。

「本当なんだ、本当に撮れないんだ。」

「そんな訳ないじゃん!」

「いいから試しに撮ってみてよ。」

 仕方ない。この悪霊を退散させるためには撮るしかなさそうだ…

「じゃあ撮るぞ。」

「よし!ばっちこい!」

 彼女は相変わらず幽霊らしくない満面の笑みでカメラに目線を送った。


 僕に向けてる訳じゃない。

 そんなのわかっている。

 でも、自分の意志とは関係なく手はいつものように震える。


 最初は何度も試したんだ。


「は、はい、チーズ。」

 カシャ。


「ねぇーなんで写真を撮るとき、はいチーズなんて言うの〜?」

「さぁな。」

 ………

「いつまで憑いてくるつもりなんだ?」

 結論から言おう。

 無事彼女の遺影を撮ることができた…

 が、自分の致命傷のせいで写真はぶれぶれで心霊写真にもならなかった。

 案の定こいつは不服そうでちゃんと撮るまで離れないと言われてしまった。

「そういえば君、名前なんていうの?」

 ここで答えないとまた面倒くさそうだ。

「僕は遺人ゆいと。」

「おぉ!遺す人いいね〜写真家っぽい!」

「そんなの名前だけだ。」

 手が震えてしまうなんて写真家失格だ。

「で、そっちはなんて名前なんだ悪霊?」

「ちょっと!レディーに悪霊はひどい!もー、ウチはユウカ。ゆうって読んで。」

「まんまな名前だな。」

「えへへ、そうでしょ〜」

 なぜ、嬉しそうなのだろうか。

「と、言う事でこれからよろしくね。」

 幽は僕に手を向けた。多分ハイタッチがしたいのだろう。こういうときは大体握手だと思うが…

 仕方ないと思いつつ僕は振りかぶった、、、ズルッ。


 こんなにイライラしたのはいつぶりだろう。そりゃあ幽霊だもんな。触れられるわけないんだ。

 幽はニヤニヤしながらこちらを覗いている。きっとイタヅラが成功して喜んでいるんだろう。

 僕は高校生になって初めて派手に転んだ。

「悪霊って言った仕返しだよ〜」

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