第二話 僕と俺と彼の日々
高校1年生の真夏、夏休み後半で終わりも近付いた頃、親友は夜の帳が下りるのを後に死んでしまった。
親友が死んでから何も出来なかった自分に嫌気が差し、一時期ご飯が喉を通らなく、トイレに駆け込んでは吐いたり、寝不足で頭痛に襲われたりなど、日常に支障を来す事もあった。
何より、僕自身、いつしか親友がいない事に慣れて忘れてしまうのではないかという事を恐れていた。
そこで初めこそ馴れてなく周りに馴染まなかったが、一人称を僕から俺に変えた。普通のありふれたあいつの一人称だ。正直これに意味があるとも思ってない。
結局のところ、慣れて忘れてしまったら意味がない。だが、自分の一人称を変えただけでも彼の事を忘れずに済むかもしれないと考えた。自らに彼を重ねられるのはここしかないと思ったからだ。
結果、俺は彼について忘れること無く脳裏にあの日を焼き付けたまま今を生きてきた。しかし、それは彼に寄り添う事ではなかった。
分かっていた。
自分が彼を忘れないようにしても
実際は彼との過去から逃げていた。
考えないようにしていた。
何も出来なかった自分が嫌だった。
他の人ならどうだ? 止めたかもしれない。
もし止めていたら……?
それでも彼は気にせず飛び降りたか?
分からない。分からない。分からない…
ただ、忘れたくない。
忘れる訳にはいかない。
俺は親友を忘れたくない。
親友に故人として接したくないのだ。
そんな事を考えていたら2年生になった。彼の事を忘れたくない。でも思い出すと自分が嫌になる。また、ご飯が通らなくなるかもしれない。それの繰り返しだった。
葬式の時に頂いた日記がある。ご遺族……いや、ご家族の方によると高校になってから付け始めたらしく、書いているのは数ページらしい。1日1枚ではなく、1ページに数日分書いていたそうだ。
だが、怖くて未だに開いていない。それに今まで忘れていた。日記よりも彼自身を忘れないようにしていたからだ。
それから日記を学校に持っていった。教室は変わったが、それでも学校は彼と最後まで話した場所だったからだ。
夏休みに入り、夏課外も始まった。初めの1週間しかないのだから正直休みでも良いのでは? と思ってしまう。その間も日記を持っていった。というより持ってきてしまった。
この時期になるとどうしても思い出してしまう。彼が亡くなったあの日の空が良く見える場所。課外終わりにわざわざこんな時間まで残る奴いないだろ。まぁ俺以外誰もいないから特に気を遣うこともないけれど。日記…机の上にあるこの日記……ふと、何を思ったか開いてしまった。
*
そして日記を読み進めた。大抵は俺との会話の日々だったりありふれた日常だったりを書いていた。だが、夏休みになる数日前から日記の内容が明らかに減っていた。1行程度で済まされていた。そしてその中に1つ目を引く文章があった。
時に、身近な人が本当に死にたいと言ったら俺はどうするのだろう。
これは間違いなく自分が問い掛けた内容だ。 そこからというもの生きることについて良く書かれていた。その中には彼の悩みである進路、親のためなど、何かに引っ張られているような文が続いた。
そして夏休みに入ると"課外がめんどくさい"などのありふれた内容に一旦戻った。そして自殺する前日、
俺は最後にあいつと話がしたい。
と書かれていた。「なんだよそれ」と思わず声を漏らした。最後まであいつにとって親友でいられたのではないかと思う。初めてそう感じたのだ。それと同時に勘違いにも気付いた。
俺は、いや、僕があいつのために、寄り添うためにするべき事は自分と彼を重ねることではない、ただ、親友として、僕個人として彼との問いを続けるだけだ。そう。それが僕らが続けた何気ない日常なのだから。
彼との日々を忘れないのならば、
今またこの日記に続きを書くならば、
僕は親友としてあいつと話を続けたい。
そして僕は再び日記に、いや何処かでお前に
「そうだろ?」
と問いかけた。
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