第7話
☆
夏の風が吹き込む窓を、僕はピシャリと閉めた。
外の気温が気になってなんとなく開けてはみたけど、吹き込んできたのは肌にまとわりつく生ぬるい空気だけだった。そんなたっぷりと熱を溜め込んだその空気も、すぐにエアコンの効いた部屋の中へと溶けてしまう。
エアコンの稼働音とPCのファンの音、そして、窓を閉めていても関係なしなセミの鳴き声。閉め切られたこの部屋には、静かな時間が流れている。
社会人になってから何度目になるかも分からない夏休み。今日は夕方から彼女と会う予定になっているけど、この酷い日差しを見ていると、家を出るのも億劫になってくる。
「やっぱ暇だな」
長期休暇は、いつものことながら退屈だ。とりあえずテレビの電源を入れて甲子園を眺めた。画面越しでも分かるほどのジリジリとした太陽の下、真っ黒に日焼けした球児たちの姿が映される。カキーン!と、高校野球特有の金属バットの音が響いた。
強い当たりもショート正面。バッターは懸命に一塁ベースへとヘッドスライディングをしたけれど、判定は明らかだ。それで試合終了だった。
どうしようもないほどに、夏だった。
夏の空気を感じるたび、今でも不意に懐かしい気持ちになる瞬間がある。
――夏だねぇ、青木くん。
夏が来るたびに、彼女が決まって僕にかけてきたその言葉。僕にはもう、その声は聞こえない。
それでも、夏が来るたびに思い出す。
何度も、何度でも、思い出す。
おわり
きみは夏の蜃気楼 天野琴羽 @pinntaronn
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