第65話

 早速、それぞれの担当にわかれて依頼者と会うことになったのだが、佐伯さえきのぞみが担当する依頼は依頼者との情報交換やコミュニケーションが必要であるのに対し、秋斗あきと春樹はるきが担当する依頼は一緒にスイーツを食べるだけである。

 希のように関係性の設定を考えることもないし、依頼者は秋斗たちと同じ一年ということで気を張ることもないだろう。


 依頼者と日程を調整し、秋斗と春樹は土曜日にスイーツビュッフェに行くことになった。


「こ、こんにちは。今日はよろしくお願いします! 変な依頼ですみません」

 対面するなり、依頼者は恐縮そうに頭を下げた。コミュ力おばけの春樹はすぐさま彼の肩に手を置き、笑いかける。

「こんにちは。今日はよろしくね! 俺は後藤ごとう春樹、こっちは葛城かつらぎ秋斗」

 すると依頼人はゆっくりと顔をあげ、春樹の目を見た。春樹の屈託くったくのない笑顔で緊張がほぐれたのか、頬をゆるめる。

橋本はしもと寛太かんたです。よろしくお願いします」


 秋斗も春樹もスイーツビュッフェに行くのは初めてだ。家族と来たことがあるという橋本の案内でお店に行くと、土曜日とあって店内は混雑していたが無事に席をとることができた。

 店内はカップルや家族連れ、数人のグループなど想像以上に年齢層もバラバラだ。秋斗と春樹は席についてもきょろきょろと辺りを見回してしまう。


 甘いものがそれほど得意ではない秋斗は食べられるか心配していたものの、このお店にはあんみつやぜんざい、もなかなどの和菓子もたくさん置いてあった。

「うわ~! すっごいね! こんなにスイーツが並んでると壮観そうかん!」

 春樹はトレイを持ちながら興奮したように声を上げる。


 自分勝手な依頼だと心配していた橋本だったが、「楽しんでもらえてるなら良かった」とホッと胸をなでおろした。

 ――秋斗と春樹は橋本と連絡先を交換し、今度は友だちとして一緒に行くことを約束した。フレンドリーな春樹がいたため、話が途切れることもなく、90分の食べ放題を三人は楽しんだ。


 *


「希の依頼はどうだった? 変なことされてない?」

 数日後、秋斗、春樹、希がいつものように一緒にお昼を食べていると、春樹はそわそわとした様子で希にたずねた。


「ん? 依頼はちゃんとこなしたよ。依頼者の赤澤あかざわくんのバイト先に行って、バイト仲間にあいさつして、その後一緒に夕飯食べた」

 あっけらかんと希がこたえると、春樹があわてたように詰め寄った。

「え、一緒に夕飯食べたの!? 依頼は一緒に帰るとこまででしょ?」

「まーそうなんだけど。最初の打ち合わせのときから好きな漫画の話で気が合ったんだよね。その場のノリ?」

 希が首をかたむける。


 春樹はなおもなにか言いたげだったが、頬をふくらませながら体を元に戻したので、秋斗は肩をポンと叩いた。


 佐伯の方はなにも心配することはなく、つつがなく解決した、と言いたいところだが、犬の幽霊ワンが依頼の猫を探し当てたところ、その猫が幽霊のワンにびっくりして一度逃げられてしまったらしい。

「ちょっとてこずった」と苦笑していたが、人探しの方は即解決したと彼女は胸をはった。

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