第十章 探偵の卒業

第64話

「ク~リスマスが今年もやってきた~」

 クリスマスソングを陽気ようきに歌いながら、春樹はるきはキャンパス内に設置されたクリスマスツリーの写真を撮った。

「まだ一か月も先じゃん」

 のぞみはストールに顔をうずめながらそうツッコんだが、彼女もしれっとスマホを取り出している。


 秋斗あきと、春樹、希の三人は昼休み、佐伯さえきに呼ばれて探偵アジトに向かっていた。アジトに集合するのはだいぶ久しぶりだ。あそこはせまいが不思議と落ち着く。


 *


「依頼が重なっててな。分担しようかと」

 佐伯はのり弁のふたを早速開けた。

 月曜から金曜まで大学内にお弁当屋さんが来るのだが、そこのお弁当屋さんはボリューミーなのに値段が安いため、いつも販売開始十分で完売してしまう。

 大学四年生で授業がほとんどない佐伯は、お弁当屋さんが来るのを待ちせし、一番乗りで買ったのだそうだ。


 彼女は左手の指を四本立てる。

「今回来た依頼は四つ。いち、一緒にスイーツブュッフェに行って欲しい、に、彼女のフリをして欲しい、さん、行方不明の猫を探して欲しい、よん、ある人を探して欲しい」


「なんかあれだね、そうちゃんさんが言ってたレンタル友だちみたいな依頼がある」

 春樹はおかかおにぎりを左手に、さけおにぎりを右手に持ちながら呟く。

「猫や人を探すのはワンが役に立つから私が二つ担当する」

 佐伯が先手を打った。

 たしかに学園祭で財布を盗んだ犯人をさがすときも、犬の幽霊ワンが役に立った。ワンがいなければ見つけるのに時間がかかっただろう。


「となると……」

 秋斗はそう言いながら希を見た。彼女はすごく嫌そうに顔をゆがめながら、サンドイッチを口に運んでいる。

「それって、私が彼女のフリをする依頼担当ってことですか」

「そりゃ彼女って言ってるくらいだからな」

 くくくっと佐伯はのどを鳴らした。


 秋斗の横にいる春樹も不満そうにむすっとした顔をしている。

「依頼断ることはしないんですか?」

「ないな、どれも可能な依頼だし」

 口角をにやりとあげて佐伯はこたえた。どうにか彼女のフリをしなくて済む方法を考えている希が「あ、じゃあ女装じょそうした春樹がやれば……」と期待の視線を春樹に向けるが、佐伯がその意見を一刀両断する。

「スイーツビュッフェの依頼者は男が良いって言ってるから、倉田くらたはムリだぞ」


 希はにやにや顔の佐伯を軽くにらんだあと、あきらめたように大きく息を吐いた。

「わかりましたよ……」

「じゃあ俺と春樹がスイーツビュッフェ担当ですね」

 希が誰かの彼女役をすることに納得のいっていない春樹を横目に、秋斗は言った。


 担当が決まったところで、佐伯は簡単な依頼内容をそれぞれ説明してくれた。


 一つ目の依頼者は法学部一年男子、依頼内容はスイーツビュッフェに一緒に行って欲しいとのこと。

 理由はスイーツビュッフェに男一人で行きにくいからだそうだ。この時期、店内はクリスマス仕様になっているらしく、それも相まって今行きたいのだという。


 二つ目の依頼者は経済学部二年男子、依頼内容は彼女のフリをしてアルバイト先に来て欲しいとのこと。

 クリスマスが近づいてきたこともあってバイト仲間と恋愛の話をしていたところ、見栄みえを張って彼女がいると言ってしまったらしい。よくあるパターンだ。バイト仲間に紹介して、バイト後一緒に帰る、いうなればそれだけだ。


 三つ目の依頼者は法学部四年女子、依頼内容は行方不明の猫を探して欲しいとのこと。家で飼っている猫が一週間帰ってこないらしい。

 四つ目の依頼者は商学部一年女子、依頼内容はある人を探して欲しいというもの。怪我をしたときに絆創膏ばんそうこうをくれた青年にもう一度会いたいそうだ。

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