第63話

 依頼が無事に終わった秋斗あきとのぞみが探偵サークルのブースに戻ると、佐伯さえきはもぐもぐとクッキーを食べていた。机の上には他にもワッフルやマカロンがある。おそらく隣の製菓せいかサークルで買ったのだろう。

「お疲れさん」

 と、彼女は軽く手を挙げた。

 お菓子を机にポロポロこぼしている佐伯の前に、二人は無言でてのひらを出す。佐伯は一瞬むっとした表情をしたが、仕方ないなぁという風に掌にクッキーを置いた。


 *


 ――おやつを食べて一息ついたあと、秋斗と希は春樹はるきに会いに中央ステージへ向かった。

 中央ステージでは、ダンスパフォーマンスが主に行われる。ヒップホップサークルをはじめ、タップダンスサークル、ジャズダンスサークルなどのダンスサークル、他にも大道芸サークルが手品やジャグリング、パントマイムを披露ひろうしていた。


 ステージ運営の手伝いをしているという春樹(女装姿)を探していると、それらしき人の後ろ姿を発見した。ゆるくカールされた茶髪ロング、ドット柄の長袖ワンピース、ヒールのパンプス。春樹から見た目の情報を教えてもらっていなければ絶対気がつかなかっただろう。

 秋斗と希の気配を察知さっちしたのか、春樹らしき人物はくるりと後ろを振り返った。


 うわ、想像していた以上に似合ってんな。


「おおー、可愛いじゃん」

 希も感嘆かんたんの声をあげた。二人は下から上へと顔を動かし、春樹の女装姿をじっくりと堪能たんのうした。

 春樹は少し恥ずかしそうに頬をかく。

「そ、そんなに見つめられたら照れるじゃ〜ん」


 記念に三人で写真を撮り、タイミングよくステージ発表だったマジックショーを一緒に見物した。定番だが帽子の中からはとが飛び出す手品を間近で見たのは初めてだったのでテンションが上がる。周りの観客の熱気を肌で感じ、大学の学園祭はすごいと秋斗は改めて感じた。

「じゃあ俺、着替えてくるから。そしたら色々回ろ~」

 春樹が手を振り、更衣室に走っていった。


「秋斗はどっか行きたいブースとか、見たいステージある?」

 今日の探偵依頼の受付は終了だから遊んでいいぞ、と先ほど佐伯から連絡をもらっていた。秋斗は希からパンフレットを受け取ってパラパラと眺める。


 キャンパス内ではイチョウが色づき始めていて、もう少しすると綺麗なイチョウ並木が見られるだろう。落ちてきた中途半端な色合いのイチョウをつかんだ。

「お待たせ~」

 いつもの姿に戻った春樹が大きく手を振った。


 三人でいると、普段一番前を歩くのは春樹だが、今日くらいは浮かれてもいいだろう。秋斗は持っていたイチョウをしおり代わりにパンフレットにはさむと、「よし、行くか」と先陣せんじんを切った。



〈第九章 学園祭 終〉

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