第60話

 秋斗あきとのぞみがハンドメイドサークルのブースをあとにして数分後、原田はらだが息を切らしながら追いかけてきた。


「あ、あの、助っ人を呼んできました」

 そう言って原田の後ろから現れたのは如月きさらぎしゅうだった。如月の姿に秋斗は目を見開き、希は心配そうに秋斗の方を向く。

 如月は原田の恋人であり、秋斗の兄が起こした交通事故の被害者家族でもある。原田の依頼によって、秋斗たちは佐伯と一緒に如月が受ける講義に潜入せんにゅうしたのだった。

 最後に顔を合わせたときの如月はひどくやせ細っていたが、現在は顔色も良く、体重も元に戻ったようだ。


 秋斗はなんとなく気まずい思いで如月を見つめてしまう。その視線に気づいた如月は困ったように眉尻を下げた。

「すみません、俺が助っ人とか気まずいですよね」


 秋斗から事情を全て聞いている希は、なんともいえない表情を浮かべる。彼女は固まったままの秋斗をひじでつついた。

「ほら秋斗、しっかりして」

 はっとしたように希を見た秋斗は「悪い」と苦笑した。


 同じく彼氏である如月から話を聞いている原田は、困惑こんわくしながらも強い意志で、如月の腕を引き寄せた。

「愁くんは空手の大会で日本一になったこともあるんです。運動神経も良いし、喧嘩けんかも強いし……助っ人には最適な人材だと思います」


 必死に訴える原田に如月は目を丸くすると、すぐに口元に手をそえてくくっと笑った。原田は彼がなぜ笑っているのかわからず、「なんで笑うの」と頬をふくらませる。そんな彼女の頭を、如月はそっとなでた。

「いいや、一生懸命なのが可愛くてつい」

 如月がやわらかく目を細めると、原田は恥ずかしそうにうつむいた。如月はニコニコしながら彼女の髪の毛を優しくく。


 ……なにを見せられているんだろう。


 目の前でカップルのいちゃつきを見せられ、秋斗と希は居心地悪そうに顔を寄せ合った。希は右手を口元に当てて小声でささやく。

「すごーく甘々だね」

「だな」


 如月は自分たちの世界に入っていたことに気づき、頬をかいた。

「そういうことなので、犯人確保をぜひお手伝いさせてください」

 秋斗も肩の力が抜けて表情をゆるませる。

「はい、ぜひお願いします」

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