第59話

 佐伯さえき茉鈴まりんには幽霊の使い魔が三人……いや、三体いる。犬の幽霊、ワン。鳥の幽霊、ピーちゃん。少女の幽霊、ハナ。

 相変わらず佐伯のネーミングセンスはひどい。ハナにいたっては、最初花子はなこという名前にしようとしていたらしいのだが、本人が断固だんこ拒否し、ハナという名に落ち着いた。


 三体の幽霊は佐伯の叔父おじである宗介そうすけが特別な術をかけてあるため、普通の幽霊とは違うようだ。秋斗あきとのぞみも実際に、鳥の幽霊ピーちゃんが人間の体の中に入り、記憶や感情を読み取るという不思議な場面を目撃もくげきしている。


 *


 ワンは秋斗たちが商学部とうから出て歩き出すと、軽快けいかいな足取りで後ろをついてきた。

「希ってワンとは話せるのか?」

 秋斗がワンを振り返りながら問いかけると、希は首を横に振った。

「ううん、動物はムリ。佐伯さんはいけるみたいだけどね」


 ――ハンドメイドサークルのブースでは二人の女性が店番みせばんをしていた。原田はらだは秋斗たちを手で示す。

「探偵サークルさんの二人。改めて話を聞きたいって」

 原田がそう言うと、向かって右側に座る眼鏡をかけた女性があわててその場に立った。サラサラストレートな黒髪がれ、彼女は静かに髪を耳にかける。

峰岸みねぎしです。よろしくお願いします」


 彼女が財布をぬすまれた被害者だそうだ。


 秋斗と希も簡単な自己紹介をする。

「どういう財布さいふか見せていただけませんか?」

 希が早速峰岸にそうたずねると、峰岸はスマホを取り出して写真を見せてくれた。

 折り畳むタイプのコンパクトな財布だ。藤色でがらなどはなく、シンプルなデザインだった。色違いの財布をいくつか販売しており、そちらも見せてもらう。

 秋斗は自分の足元でおとなしくしている犬の幽霊ワンにさりげなく財布を見せる。ワンはきゅるんとした瞳でその財布をじっくりと観察した。


「原田さんの話だと、犯人はグレーのフード付きパーカーを着ていたそうなんですが、同じ人で間違いないですか?」

 希は事情じじょう聴取ちょうしゅのようにメモを片手……ではなく、スマホを片手に聞き始めた。峰岸は「はい」と首を縦に振り、自分の頭より少し上に手をげる。

「身長は私より少し高いくらいだと思います」


 ワンは希たちが話をしている間に、被害者である峰岸の足元へ移動し、彼女のにおいをクンクンといだ。佐伯さえきによると、ワンはこの匂いをたどって犯人を見つけることが出来るのだそうだ。

 秋斗と希は視線をわし、うなずいた。


「ありがとうございます。財布、取り返してきますね」

 希は最後にそう言って、安心させるようにやわらかく笑った。

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