第56話

 ――秋斗あきとはビニール傘を、春樹はるきは牛のぬいぐるみを持ち、ゲームセンターのどこかにいるであろうのぞみを探した。


「うっわ! お姉さんうまっ!」

 興奮した声の方を向くと、希と知らない男性がレースゲームで対戦していた。「やべっ、おわっ、くそっ」など常に声を出している男性の横で、希は一言も発さずレースに集中しているようだった。


 なにやってんだ、あいつ。


 あきれたように秋斗がため息をつく横で、春樹はむすっとした表情で彼女たちを見つめていた。はぁと秋斗は二度目のため息をつく。


「しゃっ!」

 レースが終了し、希はこぶしにぎった。隣の男性に軽くあいさつをして椅子から立ち上がると、秋斗たちにようやく気づく。

「あれ、終わったの? 結構時間かかったね」

「も~う! 俺が真剣にUFOキャッチャーしてたのに希一人で遊んでたの? 俺も一緒にやる!!」

 春樹は頬をふくらませて怒るが、希は彼の腕の中にいる牛のぬいぐるみを一瞥いちべつし、ふきだした。


「も~う、って牛みたい」

 そう言って希は肩を揺らす。どうやらツボに入ったらしい。

 春樹は秋斗の胸に牛のぬいぐるみを押し付けると、あははっと一人で笑い続ける希の手を引っ張った。

「ほら! 俺とも対戦して!」

 ねながら歩く春樹に、希は抵抗することなく続く。

「俺もたまには遊びてぇんだけど」

 秋斗は傘とぬいぐるみに視線を落とし、小さくつぶやいた。


 * * *


 佐伯さえき茉鈴まりんの目の前には、疫病神と貧乏神がいた。

「んだよその姿、イケメンのつもりか?」

 少年姿の貧乏神はあおるように疫病神のヤクを見上げる。


 神様は姿を自由に変えることができるようで、茉鈴が初めて見たヤクはサンタクロースの姿をしていた。茉鈴の要望で、今は黒髪長髪イケメンへと変身している。

「お前こそなんだその姿は。よぼよぼのじいさんからまさかのこんなガキに変身とはなー」

 子馬鹿にしたように言うヤクに、貧乏神は眉をつり上げた。童顔なのであまり怖くはない。

「ガキじゃねぇし! こういうのショタって言うんだぜ? 知らねぇのかよ」


 たしかにショタは幼くて可愛らしい容姿の少年のことを指すが、自分で言うものじゃないだろう。

 茉鈴は二人……いや神様だから二柱か? を見上げながら心の中で呟く。


 神様たちのやりとりを黙って見ていると、後輩三人の姿が見えた。目の前の神様たちと違い、彼らは仲良さそうに笑っている。

「依頼は成功のようだな」

 と、茉鈴が声をかけると、三人は頷いた。


 さ、面白いものも見れたし、帰るか。


 ふぅと茉鈴は息を吐き出す。正直なにをしに来たのかわからないが、また新しい神様に会えたから良しとしよう。

「ヤク、帰るぞー」

 疫病神に呼びかけると、彼はくるりと向きを変え、自分の体の中におさまった。貧乏神はその光景に目を見開くと、「はぁ!?」とデカい声を出す。

 彼が貧乏神であることを知らない希は、「誰?」と一人頭に疑問符を浮かべた。


 後ろでぎゃんぎゃんえている自称じしょうショタの貧乏神を残し、探偵サークルの四人はゲームセンターをあとにした。ちょっとだけすずしくなった秋を予感させる風が頬をかすめる。

 次はどんな面倒事――面白いことが舞い込んでくるだろうか。



〈第八章 器探し 終〉

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