第53話
「では、お邪魔しました」
ビニール傘は結局希が持ち帰り、また大学へ放置するようだ。放置と聞くと雑に
三人と一体(?)で駅へと向かっていると、数メートル先に火の玉みたいなやつがぷかぷかと浮いているのが秋斗と希の目に入る。
唯一
「二人ともどうかしたの?」
春樹が不思議そうに後ろを振り返ると、火の玉もこちらを向いたような気がした。目がどこにあるかはわからないが。
依然として動かない秋斗たちの元に春樹が歩いてくるのと一緒に、火の玉も移動してきた。
火の玉は希が右手に持ったビニール傘にぐっと近づく。すると、希は左手をおでこに当て、空を
「なんかしゃべってるのか?」
秋斗が希の肩を叩くと、彼女の気だるそうな瞳が秋斗をとらえた。
「
希が指をさしたのは火の玉。
視えていない春樹は「俺にもわかるように話してよ~」と一人しょぼくれた。
*
三人はひとまず駅に向かい、座れるところを探した。こういうとき、人でない者の声が聞こえると便利だよな、と秋斗は感じる。自分だけがついていけない状況はなんとも居心地が悪い。それは春樹の方が感じているかもしれないが。
希はベンチに座ると、ふぅと一息ついてから口を開いた。
「火の玉がここにいるんだけどね。なで牛の魂らしい」
「「なで牛?」」
秋斗と春樹の声がハモる。
「なで牛ってあれだよな? 神社とかにいるやつ」
秋斗はズボンのポケットからスマホを取り出すと、ネットで検索をかけた。横から春樹がのぞき込み、写真を見ると「ああ~見たことある」と
「そう、それそれ。その魂なんだって。笠が器探しを手伝ってもらったって自慢げに話したら、『じゃあわしも頼もうかねぇ』って」
「今度の子は一人称わしなんだね~おじいちゃんなのかな」
「気にするとこそこかよ」
のんきな春樹に対し、秋斗は肩をすくめた。
希はこめかみに指を当て、火の玉を見下ろす。
「器探しをするにしてもね、物によっては受け入れてくれないことがあるんだって」
「ん? どういうこと?」と春樹。
「笠地蔵と傘は漢字は違うけど音は一緒でしょ。そういうなにか関連性がないとダメみたいなんだよね」
「なるほど。それは難しいね」
春樹は
秋斗はその横でずっとスマホを操作していた。器を探すならまずはなで牛に関しての情報を集める必要があるだろう。
なで牛は自分の体の悪いところに触れたあと、なで牛の同じ部分に触れると、悪いものが牛にうつって悪いところが治ると信仰されているそうだ。
秋斗はそのまま『うし 漢字』と検索欄に入力する。
牛、
「笠地蔵のパターンで器を探すのはムズそうだな」
秋斗はため息交じりにこぼした。希は秋斗のスマホの画面をひょいっとのぞき見ると、「だよねー」と同意する。
ベンチに座らず、きょろきょろと辺りを見回す春樹は腕を組んだ。
「う~ん、もういっそのこと牛のぬいぐるみじゃダメ?」
思いつきの春樹の発言に、秋斗と希ははじかれたように顔を上げる。
「いいじゃん、それ」
「だな」
賛同を得られると思っていなかった春樹は目を丸くした。
「え、いいんだ」
「わからないけどね。やってみる価値はあるでしょ」
希はサッと立ち上がって歩き出す。
今日の天気予報の降水確率は0%。ビニール傘をただ一人手にした希のあとを、秋斗と春樹は
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