第八章 器探し

第50話

 宗介そうすけが所長をつとめるオー・ハライ探偵事務所で、本間ほんまゆい久保寺くぼでらがくから依頼されたストーカー事件の話をしていた探偵サークルの面々。


「変なものってなんだろう?」

 オカルト研究サークルの溝口みぞぐちから、『変なものを発見したのでぜひ見ていただきたいです』と新たな依頼の連絡が入り、春樹はるきは楽しそうに体をらした。


 バイトまでの時間がいているらしい溝口は、オー・ハライ探偵事務所まで来てくれるそうだ。移動する手間がはぶけていい、と佐伯さえきはほくそ笑んだ。


 *


 久しぶりに会った溝口は安定のマッシュルームヘアーだったが、初めて会ったときには身につけていなかったゴールドのピアスやネックレス、バングルをじゃらじゃらとつけていた。

 なんかバンドマンみたいだな、と秋斗あきとはなんとも言えない表情を浮かべる。

 中身はオカルトオタクのままであるが、ちょっと近寄りがたい感じになっている。秋斗の隣に座るのぞみは無意識に体を引いた。


「お久しぶりです。それと……初めまして、溝口と言います」

 溝口は佐伯にあいさつをしたあと、宗介に向かって丁寧にお辞儀じぎをした。

「初めまして、この事務所で所長をやっている豊崎とよさきです。今日は依頼人が来る予定もないから、ゆっくりしていってね」

 そう言って宗介は溝口が後ろ手に持つものをちらりと見たあと席を立ち、お茶を用意してくれた。


 座るところが佐伯の隣しかなく、溝口は数秒逡巡しゅんじゅんしたのち、彼女の隣に腰かける。隠すように体の後ろに持っていたビニール傘をかかげると、希が身を乗り出した。

「え、か、かさ?」

「どう見たって傘だろ」

 秋斗が思わずツッコむと、希は「そうじゃなくて」と首をブンブンと横に振った。佐伯は脚を組んで、興味深そうにビニール傘と希を交互にながめた。春樹と溝口はきょとんと首をかしげている。


 希は人差し指を口元にもっていき、ビニール傘に向かって話し出した。

「笠、少しの間だまっていて。状況整理するから」

 急に傘に話しかける彼女に、佐伯だけが動揺することなく口角をあげると、大声で宗介の名を呼んだ。

「宗ちゃーん! ちょっと来て!」

「んー?」

 呼ばれた宗介は自分が座るための椅子を持ってきた。


 みんなの顔を見て瞬時にだいたいの状況を把握はあくした宗介は、「あー、なるほどね」と困ったように笑う。

「声が聞こえないとらちがあかないってこと?」

 佐伯にそうたずねると、彼女は大仰おおぎょうに頷いた。


 宗介は腰に手を当て、ふぅと息を吐き出す。秋斗、春樹、溝口をその場に立たせ、そしてすぐに霊感の力を分け与える術(?)をかけた。三人はこれで幽霊など人ならざる者の声が聞こえるようになる。

 佐伯が「ご苦労様」と上から目線に宗介の背中を叩くと、宗介は「人使いが荒いなぁ」と肩をすくめた。


 秋斗と春樹は前回やってもらっているので効能をよく知っているが、初めての溝口はなにがなんだかわからないというように困惑の表情で身をちぢめた。だが、根っからのオカルトオタクである溝口は、すぐに興味津々な瞳を宗介に向けている。


 本題に入るため、佐伯はコホンとわざとらしく咳払いをした。

「まずは溝口、今回の依頼について改めて教えてくれ」

「あ、はい。えーっと、数日前大雨が降ったじゃないですか。そのときにたまたま大学内でこのビニール傘を発見しまして、誰のかわかんないけどまあいいかなぁって気持ちで借りたんです。そしたらこの傘、オレがどこも触っていないのに開いたり閉じたりして。変な動きばっかりするんで、一回見てもらおうかなと」

 身振りをまじえながら話す溝口は変な現象を怖がっているわけではなく、不思議なことに遭遇そうぐうできた嬉しさがにじみ出ていた。


 佐伯は「ふむ……」と一つ頷くと、ずっとそわそわしている希に顔を向けた。

「んで? 倉田くらたはこの傘となにか関係しているのか?」

「あー、……はい。話すと少し長くなるんですけど……大丈夫ですか?」

 みんなの反応をうかがう希に対し、宗介は「僕も興味あるなぁ」と優しく笑いかける。

 希は安心したように肩の力を抜くと、ビニール傘との出会い(?)を話し始めた。

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