第46話

 ワンピース姿の女性と少女の距離はさほど離れていないが、女性も本間ほんまたちを尾行しているようだった。

 秋斗あきとはサングラスをくいっとあげてのぞみに目配せすると、彼女は大げさに肩をすくめた。

「ストーカーは二人ってことになるね」

 希はそう言って、本間に連絡するべくスマホを操作した。


 春樹はるきは「え?」と希を振り返り、首をかたむける。

「あの帽子かぶった女の子だけじゃん。他にあやしそうな人見当たらないよ?」

「いや、幽霊のストーカーがいるんだよ」

 苦笑しながら秋斗が教えてあげると、春樹は周りをきょろきょろと見回す。そんなことをしても霊感のない春樹にはえないだろうが。

「幽霊の、ストーカー?」

 不思議そうに言葉を繰り返す春樹に、秋斗と希は大きく頷いた。


 ワンピースを着た女性はどこからどう見ても幽霊なのだ。姿に色はなく、電柱をすり抜けて歩いている。

 久保寺くぼでらが感じていた悪寒おかんは、もしかしたらあの幽霊のせいかもしれない。久保寺はきっと気配を感じるだけで視えないタイプの霊感持ちなのだろう。一口に霊感があるといってもさまざまなのだ。


「んーとじゃあ、本間さんと久保寺くん、俺は女の子の方を、幽霊さんは秋斗と希が交渉する感じかな?」

 春樹はあごに手をそえ、そう提案した。

 スマホから顔を上げ、希は首肯しゅこうする。

「そうだね。ゆいにも今メッセージ送った」

「女の子の方は感づかれないように慎重にな」

 秋斗は再度春樹に忠告をし、希とともに幽霊のもとへと歩みを進める。驚かせないよう、希は慎重に声をかけた。

「あのー、すみません」


 突然の声に幽霊はバッと勢いよく振り返る。幽霊から人間に声をかけることはあっても、人間から幽霊に声をかけるパターンはおそらくまれだ。幽霊は不審そうな表情で秋斗と希を見つめる。

 希はコホンと咳払いをし、幽霊との会話をこころみた。

「えーっと、あなたは彼女たちのことをいつもつけていますか?」


 どう聞くのが正解かは秋斗にはわからないが、そばで聞いているとなんとも変な質問の仕方だ。希自身も上手い表現が見つからず、頭をひねりながら声を出す。

 幽霊はいまだ警戒心をあらわにしているが、口をゆっくりと動かし、希の問いに答え始めた。希は相づちを適宜てきぎ打ちながら、真剣に幽霊の話に耳を傾けた。

「……うん、うん。ん? あー、はい。そうですね。うーん。……なるほど、そういうことか」

「いや、どういうことだよ」

 一人で納得している希に秋斗はツッコんだ。


 通訳がないと秋斗には幽霊のしゃべっている内容がわからない。希は秋斗を横目で見た。

「久保寺くんのことが好きみたい、この幽霊」

「はぁ?」

 思わず大きな声を出してしまった秋斗。すると、「あー! 待ってー!」と雄叫おたけびをあげる春樹の声が聞こえた。


「女の子の方は逃げられちゃったって」

 希はスマホを見ながら肩を落とすと、再び幽霊と向き合った。

「えーっと、私はあなたの想い人と顔見知りなので、仲介というかそういうの、しましょうか?」

 この場合の正しい対応がわからない希はそんなことを言った。


 まあとりあえず佐伯さえきに視てもらおう。秋斗と希の考えは同じだ。悪霊なのかどうかもイマイチ判断できないが、おはらいとかしてくれるかもしれない。

 秋斗はズボンのポケットからスマホを取り出し、佐伯に連絡を入れた。

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