第45話

 というわけで、探偵サークルの一年三人は会長である佐伯さえきの指示で依頼人の尾行をすることになった。


 本間ほんま久保寺くぼでらの話によると、ストーカーされる時間はだいたい16時過ぎごろ。大学の門を出てからすぐつけられているとのこと。

 二人は一度だけそのストーカーに声をかけたことがあるそうだが、すぐに逃げられてしまったらしい。本間と久保寺が大学帰りにファミレスやカフェなどに入ると、ストーカーの少女もついてくるそうなのだが、いつも18時ごろには帰るのだという。


 目的は一体なんなのだろうか?

 本間も久保寺も、中学生くらいの女の子に心当たりはないみたいだ。


 16時に四限が終わり、秋斗あきと春樹はるきのぞみの三人は大学の東門に集合した。

「緊張するね~バレないかな?」

 尾行を唯一楽しみにしていた春樹は、ソワソワと落ち着かない様子だ。本間と連絡をとるため、希はスマホを片手に辺りを見回す。不審な人物がいないか探る瞳は、友人を思ってのものだろう。いくらストーカーが少女といえど、警戒して損はない。


 ストーカーの後ろにつかなければ意味がないので、本間から連絡がきたら三人は大学を出発する予定である。

「あ、ストーカーついてきてるみたいだって」

 希が本間からのメッセージを読み上げた。


「んじゃ行くか。いいか春樹、なるべく普通に歩くんだぞ。柱に隠れて双眼鏡構えるとか、絶対変な行動するなよ」

 秋斗は春樹を名指しで注意した。今だってリュックから帽子とサングラスを取り出し、変装でもするつもりのようだ。春樹はギクリと視線をそらす。リュックからはつけ髭まで出てきた。

 物欲がなくて部屋はスッキリしているというのに、こういう物は迷いなく買うのか。秋斗は大きなため息をつく。


「び、尾行に変装はつきものでしょ~?」

 あははっと誤魔化すように笑う春樹の手から、秋斗はサングラスを、希は帽子を取り上げた。「ああ!」と春樹は抗議の声を上げる。秋斗はそのままサングラスをかけ、希も前髪を気にしつつ帽子をかぶった。

 春樹は不貞腐ふてくされたように頬を膨らませる。

「ねえ~! 二人も案外楽しんでるじゃん!」


 秋斗と希は同時にふき出す。はて、こんな調子で尾行は上手くいくのだろうか。


 *


 大学を出て徒歩数分のコンビニで、本間と久保寺の後ろ姿を発見した。その数メートル後ろにはキャップをかぶった女の子がいる。あの子が例のストーカーだろうか。少女はキャップのつばを必要以上に触りながら、二人のあとをこそこそと追っていた。


 だが、そこにもう一人、ワンピース姿の髪の長い女性がいた。秋斗たちの母親くらいの年齢に見える彼女は、首にストールを巻き、ヒールの靴をいている。

 その女性の視線のさきには、手を繋いでいる本間と久保寺がいた。

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