第40話

 八月、春樹はるきの誕生日当日がやってきた。しかもちょうどその日は、前に駅のポスターで見かけた花火大会の開催日だ。春樹のアパートでお昼に誕生日会をやったあと、夕方からは三人で花火大会に行くことに決まった。


 ――秋斗あきとのぞみは午前中、百貨店で待ち合わせをしていた。誕生日プレゼントはいらないと春樹は言っていたが、二人でなにかあげようと考えていたのだ。

「おはよー」

「はよ。プレゼント、形に残らない方が良いと思うか?」


 スマホで色々検索をしてみたが、友人への誕生日プレゼントはなにがいいのだろう。ミニマリストの春樹は形に残らないもののほうが喜ぶだろうか?


「うーん、お菓子の詰め合わせ……とか。実用品ならタオルとか?」

「なるほど……」

 夏休みとあって百貨店の中は混雑しており、秋斗は首を伸ばしてフロアマップをのぞいた。

 希もスマホを片手に調べているようだ。秋斗が「なんか良さそうなのあったか?」と聞くと、彼女は画面を見たまま口を開く。

「三人でケーキ作るのってどう?」


 手作りケーキか。秋斗は腕を組んだ。

 変に形に残る物をプレゼントするより良いかもしれない。このあとケーキ屋に行く予定だったが、手作りケーキならスーパーで材料を買っていくことになる。

「いいかもな。ケーキ作るってなったら春樹は喜びそうだ」

 友人の笑顔を想像し、秋斗の口角は自然と上がった。


 早速二人はスーパーで材料を調達し、春樹のアパートへ向かう。

「いらっしゃ~い」

 いつにも増して笑顔が輝いている春樹にむかえられ、秋斗と希は部屋に入った。秋斗は買ってきたものをローテーブルに置きながら言う。

「今日は手作りケーキだ」

「おお~! やった!」

 春樹は万歳ばんざいをしながらはしゃいだ。


 *


 大きな平たい皿の上に、半分に切った市販のスポンジケーキを乗せる。春樹は使い捨て手袋を装着してスポンジに触れた。

「ふかふかだ! このままでも食べたいね」

「このままは美味しくないと思うよ」

 希はいつも通りにマジレスをかまし、ホイップクリームを手に取った。


 秋斗は買ってきたキウイをキッチンで手際よく切っていった。本当はイチゴが欲しかったのだが、この時期は売っていないので代わりにキウイを買ったのだ。


 希はホイップクリームをスポンジの上に適量出す。クリームをるときに使うパレットナイフはさすがにアパートにないとのことで、春樹はキッチンからバターナイフを持ってくる。

 ムラがないようにまんべんなくクリームを塗ったあと、秋斗が切ったキウイをその上にきつめていく。


 再び希はホイップクリームを絞り出し、その上に残りのスポンジケーキを乗せた。そして全体にクリームを塗っていく。

「俺がやる〜!」

 と、急に春樹が名乗り出たので、希はバターナイフを彼に渡した。春樹は皿を少しずつ回しながらケーキ全体にクリームを塗っていく。


「そういえば、春樹って夏生まれなのに春がつくんだな」

 今日の主役である春樹が自分の誕生日ケーキを作っている姿をながめながら、秋斗は気になっていたことをたずねた。

「言われてみればそうだね。秋斗は名前通り秋生まれだし」

 希も作り途中のケーキから顔をあげる。


 作業の手をとめることなく、春樹は苦笑した。

「三人兄ちゃんがいるって話、前したじゃん? 上から夏樹なつき秋樹あき冬樹ふゆきなんだよね。俺が春に生まれれば完璧だったんだけど」


 秋斗は「へぇ」と声をあげる。

「四兄弟で春夏秋冬なんだな」

「そういうこと。倉田くらたさんはきょうだいいるんだっけ?」

 春樹は一度顔をあげ、希に問いかける。

「姉と兄が一人ずつ」

「意外! 下にいるかと思った」

 それは春樹の末っ子感がしっくりきすぎて、希にお姉さん感が出ているだけなのではないか?

 秋斗はそんなことを考えた。


 作業に戻った春樹はクリームを塗り終えると、「よし! じゃああとはキウイを上に乗せよ〜」と楽しそうに笑った。

 秋斗が手際よくキウイを乗せる横で、希はエコバックからロウソクを取り出す。19と書かれた数字のロウソクをケーキの真ん中に立てた。窓から太陽の光が差し込んできて、ケーキを照らす。

「わ〜! 良い感じだね!」

 笑顔を見せる春樹に、二人はうなずいた。


 早速カーテンを閉めて部屋を暗くし、ロウソクに火をつけた。希はスマホでカメラを起動し、ケーキと春樹を画角におさめる。

「誕生日おめでとう、後藤ごとうくん」

「おめでと」

 二人の言葉に、春樹はちょっと不満そうに口をとがらせた。

「ちゃんと歌も歌ってよ〜」

「「いやだ」」

「ケチ!」

 そう言いながらも楽しそうに笑う春樹。ふぅっと火を消すと部屋の中は暗くなるが、カーテンの隙間から光が入ってくる。昼間からケーキを食べるのはなんだか贅沢ぜいたくな気分だ。


 丸いケーキを三等分(春樹の分を少し大きめに)し、三人で美味しく平らげた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る