第39話
「なんで
「あ〜えっとね。入学式の日、俺体調悪かったんだけど、
照れくさそうに笑う春樹の話に相づちを打ち、続きを待つ。一向に話の続きを話さない春樹に、秋斗は眉根を寄せつつ言った。
「んで? 声かけてくれただけ?」
「そのあと大学内にある保健センターまで連れて行ってもらったよ」
「へぇ、よく顔覚えてたな」
体調が悪かったのに、そのとき会った彼女の顔をよく覚えていたものだ。秋斗だったら絶対忘れているし、仮に覚えていたとしても大学で会う確率は相当低いだろう。
「だって倉田さんだけが俺の体調が悪いことに気づいて声かけてくれたんだよ? そりゃ覚えてるでしょ」
なにを当たり前なことを、という風な顔で春樹は秋斗を見る。春樹は当時の気持ちを思い出したのか、興奮気味に語った。
「だからさ、英語のクラスがまさか同じでびっくりした。奇跡だ! なんとしてでも名前聞かなきゃ! って」
*
秋斗と春樹が思い出話をしていると、来店を知らせる音楽が鳴った。ひょこっと顔を見せた希の姿に気づいた秋斗は大きく手を挙げる。
「希、こっちこっち」
「テストお疲れー」
希は手をパタパタとさせながら秋斗の隣に腰かけた。額の汗が首筋をつたう。
「タイミング良いな」
秋斗がそんなことをこぼすと、希は「なにが?」と首を傾げる。
「さっきまで俺たちの出会いを語ってたんだよ」
「出会い? あー、あれでしょ、英語の授業で
どうやら希もちゃんと覚えていたようだ。
春樹は
「が、ガン見はしてないよ! チラ見!」
「そうだっけ? まあどっちにしろ変な人に目つけられたのかと思ったよ」
「変な人……なんか第一印象良くなかったんだね、俺……」
しょぼくれている春樹をしり目に、希はトートバックを席に置いたまま、ドリンクバーコーナーへ向かって水を持ってきた。カランカランと氷の音が鳴る。
「あ、そうそう。後藤くん、なにか欲しいものとかある?」
希は席についたと同時に急に質問する。春樹は不思議そうに瞬きをした。
「欲しいもの?」
「誕生日、近いでしょ?」
こともなげに返す希に、春樹は一瞬
「え、えええ! なにかくれるの!?」
「うん、プレゼントなにが良い?」
「そっか、来月だな春樹の誕生日」
秋斗もスマホのスケジュールアプリを開き確認した。
「夏休み中だから友だちに
寂しそうに眉を八の字にする春樹を見て、秋斗は
春樹が喜びそうなもの、喜びそうなこと、なにかあるだろうか。
「……誕生日会するとか?」
ポツリとこぼす。
思いつきで口にした誕生日会というワードに春樹は飛びついた。
「誕生日会! ナイスアイディアだよ、秋斗! プレゼントとかいらないからさ、三人で誕生日会しよ~」
瞳を輝かせる春樹に、秋斗と希は顔を見合わせる。希は椅子に背中を預け、氷がたくさん入った水を一口飲んだ。
「まあ私はそれでもかまわないけど。主役が良いなら」
「じゃあ決定! やった、楽しみだな~」
ウキウキな春樹を見て、秋斗と希は頬をゆるめた。
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