第六章 三人の日常

第36話

 ギラギラと照りつける太陽に秋斗あきとは目を細めた。建物の外に一歩出ると、もわっとした暑さが怒涛どとうの勢いでに押し寄せてくる。立っているだけで汗が噴き出るのを感じ、顔をしかめた。


「秋斗~」

 自分の名前を呼ぶ声に振り返ると、春樹はるきが相変わらずのさわやかな笑顔で手を振っていた。この暑さで周りはみな気怠けだるそうにしているというのに、春樹は毎度のことながら超絶元気だ。

 そのエネルギーを分けてくれ。

 そんなことを思いながら、秋斗も軽く手を振った。

「テストお疲れ」

「秋斗もお疲れさま。やっと夏休みだね~」

 春樹は腕を高くあげてうーんと伸びをした。


 一週間にわたる試験期間も今日で最終日。専門的な科目は用語を覚えるのが大変だったし、持ち込み可能な試験では教科書の該当ページを探すのに手間取ったし、大学生になって初めてのテストは想像していたよりも疲労感がすごい。

 とはいえ全力はくしたので、あとは単位を落としていないことを祈るばかりである。


 秋斗と春樹が履修りしゅうしていた試験は午前中で終了したので、二人は昼食をとるためにファミレスに向かった。大学近くの店は試験終わりの学生たちで混雑するだろうから、二人は電車で移動し、いていそうな店に入った。

 のぞみはというと、午後に一科目試験があるため、終了後に秋斗たちと合流する予定だ。お昼は経済学部の友人と学食に行くらしい。その友人は高校時代の同級生で、当時一番仲が良かったと話していた。


 *


 ――ファミレスに着き、腹の虫の音を聞きながら二人は注文を済ませる。春樹はドリンクバーのジンジャーエールを一口飲むと、ポツリとつぶやいた。

「……あのさ~、倉田くらたさんって今までどんな人好きになったのかな?」

 秋斗から顔をそむけ、目線だけをよこす。


 聞きたいんだか、聞きたくないんだか。はぁと秋斗は息を吐いた。

「俺は中学のときしか知らないけど」

 そう前置きをすると、春樹はごくりとつばを飲み込む。真剣に話を聞こうとしている春樹の表情がなんとなく新鮮で、秋斗は口元を手で隠した。


 ……ちょっとからかってみるか。


「テストで常に学年トップ3に入るくらい頭が良くて、顔もめっちゃかっこよくて、運動神経も抜群ばつぐんな奴」

 秋斗がよどみなく教えてあげると、目の前に座る春樹は大きく肩を落とした。

「なにその完璧超人みたいな……倉田さんって理想高いタイプなのかな……」

 そのままテーブルにガツンと頭を打ちつける。


 言われてみればたしかに完璧超人だ。実際に存在したから当たり前に受け入れていたけど、希少種である。秋斗はそこまで仲が良かったわけではないが、頭や顔の良さ、運動神経の良さに加えて性格も良かった。ファンクラブなんかもあったと風の噂で聞いたことがある。


 秋斗は落胆らくたんする春樹の頭をチョップした。

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