第35話

 秋斗あきと春樹はるきのぞみの三人は始発に乗ってそれぞれ家に帰った。秋斗が代表して探偵サークルのグループに調査報告のメッセージを送ると、佐伯さえきから『優秀な後輩たちだな、はなまるだ』などとちょっとふざけた返信が届いた。


 途中慌てる場面もあったけど、なんとか依頼人の要望は叶られそうだな。家に帰り、秋斗は一人息をつく。


 休み明け、佐伯からの呼び出しで、授業を終えた一年三人は『たちばな喫茶』に向かった。今回の依頼者である白石しらいしへの報告は昼休みに済んでいるそうだが、立て続けにまたなにかの依頼だろうか?


 たちばな喫茶に行くと、オーナーであるたちばな健太郎けんたろうの案内に従って二階へあがった。佐伯はすでにココアを飲んで待っていた。

「三人ともお疲れさん。白石からは学食一食分の料金しかもらってないから、今日は私が君たちにおごってやる」

 先輩面の佐伯はふんすとメニューを差し出した。


 時間的に夕飯にはまだ早いのだが、彼女がおごると意気込んでいるようだし、なにか注文するか。秋斗はふぅっと息を吐き出し、メニューを受け取った。

 隣に座る春樹は食べる気満々であるが、希はそこまでお腹が空いていないからとデザートを頼むようだ。


陽平ようへい、決まり破ると思う?」

 運ばれてきたオムライスを頬張りながら、春樹はだれにともなく質問する。秋斗は注文したナポリタンをフォークでくるくると回した。

「んー、ちゃんと約束とか守りそうなタイプな気がするけど、どうだろうな」


「私は破るに一票。面白半分で依頼してる気がするなー」

 秋斗の応えに対し、希はスパッと自分の意見をのべた。プリンアラモードを口に運んだ彼女は「おいしっ」と顔をほころばせる。


 佐伯は三人の会話に「はははっ」っと笑った。

「さすが倉田くらたはわかってるな。あいつは絶対破るさ」

「なんでそんなことわかるんですか?」

 やけに自信満々な佐伯に対し、秋斗が思わずたずねると、彼女は真顔で言い放った。

「女のかんだ」


 一年三人は優雅にココアを飲む佐伯を見つめた。探偵サークルの会長なのに推理をしたことがない探偵。この探偵の勘は妙に当たる。



 ――翌日、英語の授業に白石の姿はなかった。彼の友人の一人が、「腹痛で休むそうでーす」と出席を取っていた教授に教えている。


「まじか」

 秋斗は空席を見つめながら思わず口にする。秋斗、春樹、希は、なんともいえない複雑な表情で顔を見合わせた。



〈第五章 潜入調査 終〉

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