第30話

 授業後にスマホを開いてみると、未読のメッセージが一件入っていた。佐伯さえきからだ。

『集合場所は学食二階北側窓』


 学食、二階、北側、窓。


 秋斗あきとは念のためのぞみに質問した。

「どこだと思う?」

「学食の二階の北側の窓側の席、ってことでしょ?」

 の、がやたら多くなった。ペンケースとレジュメをトートバックにしまった希は、早く行こうと席を立つ。昼休みに学食へ行くのはこれで二回目だ。二人は人混みに流されながら、学食へと向かった。


 指定された二階にたどり着くが、右を見ても左を見ても人、人、人。希がいち早く佐伯を見つけ、ひかえめに指をさした。

「いた、あそこ」

 一番端の席に座っていた佐伯は、どうやら一人で昼食をとっているようだ。


 秋斗と希が席に近づくと、佐伯は片眉をあげ、カツカレーを食べていた手をとめる。

後藤ごとうは一緒じゃないのか?」

「風邪ひいたみたいです」

 と、希は眉尻を下げた。佐伯の隣に希、その対面に秋斗が腰をおろす。佐伯は水を一気に飲み干すと、そりゃ災難だなと一言こぼした。


「なんで学食集合なんですか?」

 秋斗は周りを見ながら口を開いた。人が多いから依頼のやりとりをするにはあまり向かない気がする。

「依頼人からの指定だったんだよ。人が多いけどガヤガヤしててそこまで聞こえないから大丈夫だと思うぞ。それにあそこは冷房がないからな」

 探偵アジトは外に設置されているため、言わずもがな超絶暑い。これまでは扇風機でしのいでいたが、そろそろ限界だと秋斗も感じていた。佐伯自身も最近はアジトにいないそうだ。


 *


 三人で依頼人を待つこと数分。

「こんちはー」

 そんな挨拶とともに一人の青年が佐伯の前に現れた。黒髪短髪でキリッとした眉が印象に残る彼の両手にはトレイがにぎられ、味噌ラーメンの香りがただよってくる。


 見覚えのあるその顔に、秋斗と希、そして青年はみんな同時に「あ」と声を出した。一番早く口を開いたのは青年だ。

「二人も探偵に依頼か?」

「いや、そういうんじゃなくて……探偵の手伝い、的な?」

 彼の問いに、秋斗があいまいな返しをすると、佐伯はむっとしたように訂正ていせいをいれた。

「この二人もサークルのメンバーだ」


 すると青年は何度か目をパチパチとさせたあと、豪快ごうかいに笑った。

「まじか、変わってんな二人とも」

 嘲笑ちょうしょうを含んでいない素直な彼の言葉に、秋斗と希はホッと息をつく。青年はトレイをテーブルに置き、秋斗の横に座った。


 カツカレーを食べ終えた佐伯は、コホンと咳払いをし、早速本題に入る。

「改めて、名前と依頼内容を教えてくれ」

白石しらいし陽平ようへい、一年商学部。試験問題が知りたい」


 白石は秋斗たちと同じ英語のクラスである。陽平という名前通りの陽キャで、彼の周りには常に人がいる。明るく社交的というだけでなく、教室のすみにいるような奴にも普通に声をかけるようなタイプだ。

 誰とでも分けへだてなく接する白石の評判は良く、秋斗と希もそんな彼のことを好ましいと感じていた。


 誠実せいじつそうな彼が、試験問題を知りたいと言っている。秋斗と希はそろって目を見張った。

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