第26話

「はいはいはーい、それじゃ報告するっすよー!」

 レイは手を挙げ、自分に注目するよう秋斗あきとたちを見回した。

「えーっと、今回の依頼は不倫の証拠をつかむこと。依頼者は35歳女性で、その旦那さんが50歳。歳の差婚ってやつっすねー。不倫相手はまさかの21歳! さらに若い女性だったんでびっくりでしたよ! そんで昨日一日旦那さんと不倫相手を尾行して、ラブホ入ってくところをこの目で見ました!」


 怒涛どとうの勢いで話すレイに、一年三人は面食らう。さすがにえ切れなくなった春樹はるきが「ちょ、ちょっとストップ!」と待ったをかけた。

「早すぎて追いつけません……!」


 宗介そうすけあごに手を添えた。

「あ、うーんとね、どこまで茉鈴まりんから聞いてる?」

「宗ちゃんさんに幽霊を押し付けた、とだけ」

 春樹の言葉に宗介は「え、」と一瞬固まったあと、佐伯さえきあきれたように見やる。はぁとため息をつきながら頭に手を置いた宗介は、今更ながら説明をしてくれた。


「全然説明してくれてないじゃん……レイが手に負えないから面倒みてって茉鈴から頼まれてね。そしたらレイが探偵の仕事に興味を示してくれて。うちはそこまでスタッフも多くないし、幽霊は尾行にも最適だしってことで、仕事を手伝ってもらってるんだよ。それで今回の依頼が不倫調査だったって感じかな」

「なるほど……理解しました! どうぞ、続けてください!」

 春樹が手で続きをうながすと、レイは再び生き生きと話し出す。幽霊に生き生きは不適切だろうが、彼女にはなんとなくピッタリな表現だと思う。


「どこまで話したっけ……あ、ラブホまでっすね! そーすけには目撃してくれたら良いって言われたっすけど、ちょーっと興味があって、部屋までついてっちゃいました!」

 てへっと舌を出すレイに、宗介はまたも「え、」と固まり、麦茶を飲もうとしていた手を止める。


「いやー、すごかったんですよ、プレイが! なんかSM部屋みたいのがあって、二人がそこに入って行って……」

「ちょ、ちょっと待って、レイ! それ以上の報告はしなくて良いよ!」

 ハッと我に返った宗介があわててレイを止める。すると彼女は「なんでーっ!」と唇をとがらせた。せっかくここから面白いところなのに、と。


 宗介はコホンと咳ばらいをし、話題を急いで変える。

「あー、うん。じゃあこの話はおしまい! 春樹くんたちはなにか聞きたいこととかある?」

 そんな彼の問いに、春樹は数秒考えるとなにか思いついたのか手を打った。


「幽霊が視えるってことは、疫病神も視えますか?」

「うん、もちろん」

「じゃあ、疫病神さん見てみたいです、佐伯さえきさん!」

 そう言って身を乗り出すと、ちょっと不機嫌そうな疫病神が佐伯の体から出てきた。

「オレは見世物じゃないぞ」

「おおー! 二人の言ってた通り、長髪イケメンさんだ! かっこいい!」

 先ほどまで顔をしかめていたヤクだったが、純粋無垢むくな春樹のめ言葉に、彼はあっという間に機嫌を良くしたようだ。


 意外とチョロい神様なんだな、と秋斗は苦笑した。

「ふふん、そうだろうそうだろう。茉鈴が読んでいた漫画を参考にしたからな!」

 胸を張って得意げに話すヤク。探偵に幽霊に疫病神、なかなかカオスな空間になった。


 春樹は残っていた麦茶をぐびっと飲み干し、再び宗介にたずねる。

「宗ちゃんさんは、ヤクさんのことをいつ知ったんですか?」

「茉鈴が小四、あれ? 小三のときだったかな……急に憑依ひょういしたって聞いてすっごく心配したよ」


 宗介が視線を上に向け、当時を思い出していると、ソファにふんぞり返る佐伯は目を細めた。

「いやいやいや、噓つかないでよ。宗ちゃん心配というよりちょっと楽しそうだったよ」

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