第23話

 そして迎えた土曜日。佐伯さえき秋斗あきと春樹はるきのぞみの四人は探偵事務所がある最寄り駅に集合した。


「そういえば佐伯さん、気になってたんですけど、あの幽霊どうしたんですか?」

 今日もギャルの幽霊はどこにも見当たらない。疑問に思っていたことを口にした秋斗に、希も「たしかに」と小さくつぶやいた。


 スタスタと人混みをかき分けて歩く佐伯から離れないように、三人は続いていく。彼女は一瞬後ろを振り返った。

叔父おじに押し付けた」

「押し付けた?」

 春樹が首をかしげる。


「そのまんまの意味さ。私じゃ面倒見切れないから、オカルト大好きなそうちゃんにお世話を頼んだってこと」

 人通りが少し減ったところで、佐伯は歩く速度をゆるめた。彼女の横に春樹が並び、その後ろに秋斗と希が続く。


 佐伯の叔父、宗介そうすけ。オカルト好き、はらい屋、探偵、霊感がある。秋斗は知っている情報を頭の中に並べた。どんな人なのかあまり想像できないが、佐伯に似て変わった人だろうか。


 *


 やがて佐伯が立ち止まった場所の目の前には、三階建ての雑居ビルがあった。一階は床屋とこや、二階は例の探偵事務所、三階はボードゲーム屋という不思議なラインナップである。階段を上がると、扉の横には木の看板に『オー・ハライ探偵事務所』と書かれていた。


 いやなんだよ、オー・ハライって。お祓いから考えたのか?


 秋斗は心の中で一人ツッコミを入れる。希だけがなにか察したように「なかなかダサい名前だね」と小声でささやき、二人は苦笑した。


 扉の横にあるチャイムを佐伯が押すと、ピンポーンではなくビーッと壊れたような音が鳴った。中から足音が聞こえ、ドアノブをガチャガチャする音が聞こえるが、建てつけが悪いのか一向に扉が開かない。


「はーい、いらっしゃいませー」

 やがて開いた扉から出てきた女性は、お店のような挨拶で出迎えてくれる。丸眼鏡をかけ、髪をハーフアップにまとめた彼女は、ゆったりとした丈の長いワンピースを着ていた。外からの風にそのワンピースがふわりとれる。


「わぁ、茉鈴まりんちゃん! 久しぶりだねぇ」

 女性は佐伯を目にとめると、すぐに笑顔を見せた。両頬にできるえくぼが彼女を幼く見せる。

「こんにちは、美里みさとさん。もう生まれるんですか?」

 佐伯がお腹を指さすと、美里さんと呼ばれた女性はお腹をさすりながら笑った。

「まだまだだよー。そんなにお腹ふくらんでないでしょう?」


 美里は佐伯の後ろにひかえる秋斗たちに気づくと、扉を最大限開けて出迎えてくれる。

「茉鈴ちゃんがお友達連れてくるなんて、感動しちゃう~!」

 と、冗談っぽくそう言った。右手を頬に当て、左手で佐伯の肩をパシパシと叩く。


 佐伯は人差し指を彼女に突きつけ、少し前かがみになった体勢で言い返した。

「友達じゃなくてサークルのこ、う、は、い!」


 オカルト研究サークルの三人に紹介するときも、佐伯は秋斗たちが後輩であることを強調していたような気がする。誰でも先輩という立場は気分が良いもの、ということか。秋斗は勝手に結論付けた。


「はい、佐伯さんの後輩です!」

 元気よく挨拶をした春樹に続いて、秋斗と希も事務所の中に入っていった。

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