第四章 探偵事務所

第22話 探偵の叔父①

 オカルト研究サークルからの依頼をこなした日、春樹はるきが勝手に作った探偵サークル四人のグループチャットに、一件の通知が入った。

『なんで幽霊が私の家についてきてるんだ!』

 送りぬしはmarin saeki。秋斗あきとが想像した通り、佐伯さえきはあのギャルの幽霊に手を焼いているようだ。


 それに対し春樹は『楽しそうで良いですね!』などと的外まとはずれなメッセージを返している。ファイトです、というパンダのスタンプで反応を示したのぞみに続き、秋斗もなにか返信した方が良いだろうかと考え、『お疲れ様です』とだけメッセージを送っておいた。


 ——翌日、待望の初学食を経験した日から早一週間、秋斗、春樹、希の三人は昼休みに探偵アジトを訪れた。

 秋斗が「お邪魔します」と静かに中に入ると、佐伯は机に突っ伏していた。そばに立つ少女の霊は心配そうな顔で、佐伯の背中をなでている。人間と幽霊なので、もちろん触れることは叶わないが。


「佐伯さん、こんにちは~」

 能天気な春樹の挨拶に、佐伯はあごを机につけたままむくりと顔を上げた。目の下にはクマがあり、だいぶお疲れの様子だ。彼女はうらめしそうに春樹をにらんだ。


後藤ごとうめ、私は一生許さん。この一週間の睡眠を返せ」

「はえ!? な、なんですか! 俺なにかしましたっけ」

 なかなかドスのいた佐伯の低い声に、春樹は一歩後ずさり、謎のファイティングポーズを取った。秋斗と希は互いに視線をわし、二人同時に息を吐く。


「君には思い当たることがなにもないのか……? そういう鈍感なところが余計ムカつくー!」

 だいぶ機嫌が悪い我らが探偵サークルの会長は、こぶしで机をドスドスと叩いてえた。


「まあまあ佐伯さん、一旦落ち着きましょう」

 希はそう言って、手に持っていたビニール袋から、ここへ来る前にコンビニで買ってきたスイーツを取り出した。

 プリン、エクレア、モンブラン、シュークリーム、スイートポテト。並べられたコンビニスイーツを前にした佐伯は、「ん!」と目を見開き、勢いよく体を起こした。

 この探偵は結構な大食いで、特にスイーツのたぐいが大好物なのだ。早速プリンのふたを開けている。


 なんでそんなにいっぱい買うんだ? と秋斗はコンビニで疑問に思っていたが、希は彼女の性質を知った上で、ちゃんと対策を考えていたということである。


 なんだか餌付けしているみたいだ。


 佐伯の機嫌がスイーツによって多少治ったところで、春樹もコンビニで買ってきたアイスを頬張ほおばる。

「佐伯さんの叔父おじさんの探偵事務所って、どこにあるんですか?」

「んあ? あー、大学の最寄り駅から二駅のところだぞ」

「へぇー! 行きたいです!」

 キラキラとした瞳でうったえる春樹を鬱陶うっとうしそうに見てから、佐伯はポケットからスマホを取り出し、すばやい動きで指を動かした。


「――今週の土曜日に来て良いってさ」

 どうやら叔父と連絡をとっていたみたいだ。はらい屋けん探偵な佐伯の叔父、一体どんな人なんだろう。


 ぺろりとプリンを平らげた佐伯は、次にシュークリームを手に取った。かぶりつくと、中の生クリームがあふれ、指につく。希がすかさず「逆さまにして食べるとこぼれにくいですよ」と教えていた。


 *


 そんなこんなで探偵事務所に行くことが決まった探偵サークルの面々。探偵アジトをあとにした秋斗は、そこで「あれ」となにか忘れていることに気づく。


 結局、ギャルの幽霊はどうしたんだ?


 佐伯の話によると、トイレにもお風呂にも大学にも買い物にも、どこへ行くにもついてくるとなげいていた。幽霊は睡眠をとらないから、夜もずっとおしゃべりに付き合わされるとも。なのに今日は姿がえない。


 うーん、謎だ。今度聞いてみるか。

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