第20話 一緒に帰ろうよ!

 溝口みぞぐちたちはうんうんと相づちを打ちながら、のぞみの話に耳をかたむけた。武藤むとうはメモ担当なのか、手にはノートとペンが握られている。

倉田くらたさんにとって幽霊はどんな存在? オレらは亡くなった人イコール幽霊って考えてるんだけど」

 あごに手を置き、溝口は言った。


 希は浮いている幽霊を見上げ、少し考えてから口を開く。

「私もその認識は合ってると思います。だけど、幽霊には人間だけじゃなくて犬や猫の動物もいます。それから、その幽霊たちには共通して未練があるんじゃないかなって。今回の幽霊で言えば、もっと遊びたかったという未練があって、彼女は幽霊になったんじゃないかなと思います」

 生きているときにやり残したこと、そういうあきらめきれない想いを持って亡くなった人や動物たちが、幽霊という存在になっているのだと、希は結論付けた。


 メモをとっていた武藤が関心したように何度もうなずく。

「おお……なるほど、すごい。やっぱり霊感のある人に話を聞くのが一番タメになりますね、先輩!」

 溝口と渡辺わたなべは後輩の言葉に「そうだね」と笑みを浮かべた。溝口は曇ってきた空を見上げると、パンッと手を叩いた。

「それじゃあ調査も終わったことだし、早く帰ろうか。雲行きもあやしいし」


 そうして彼らは来た道を引き返し始めた。

 春樹はるきは希の前にひょこっと移動し、問答無用で手を取る。

「さ、行こ」


「ちょっとストップ」

 それを言ったのは希ではなく、秋斗あきとだ。後ろを振り返り、寂しそうにうつむく幽霊を気にかける。

「希、どうするんだ、あの幽霊」

「どうするもなにも、私にできることは喋ることくらいだし」

 希は困り顔で幽霊を見つめた。


 春樹はだまってしまった二人を交互に見ると、パッと笑顔になり、「じゃあさ」と沈黙ちんもくをやぶった。

「幽霊さんも一緒に帰ろうよ! 佐伯さえきさんならなにか良い案あるかもよ?」

「「え」」

 秋斗と希は同時に振り返る。


 話が聞こえていたのか、幽霊は風を切って(?)春樹にせまってきた、彼の両肩をつかもうとするが、幽霊ではれることは叶わない。スルッと体を一度通り抜けてしまった彼女は、気を取り直したように春樹に顔を近づけた。当の本人は霊感がないので視えないし、気配も感じないのだろうが。


「『あたしを連れて行ってくれるの!?』ですって」

 希は遠い目をしながら、通訳をしてくれる。勝手に春樹がうんと言うと、幽霊は両腕を高く上げ、溝口たちのあとについて行った。

『やったー!』

 聞こえない秋斗でも、雰囲気と口元でなんとなく幽霊の言ったことがわかった。


 これはまた、どうなるんだ。

 幽霊に続いて歩き出す春樹。それにつられるように希が続く。

 滝の音を聞きながら、涼しい風が頬をかすめた。秋斗は一度後ろを振り返ったあと、彼らの背中を追った。

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