第19話 心霊スポット調査③

 歩きなれない道を進むと、滝が見えてきた。これ以上は進めないところギリギリまで行き、溝口みぞぐちは足を止める。

「掲示板に多く書かれているのが、あの滝を背景に写真を撮ると幽霊が映り込んでくるってこと。……オレらはてっきり貞子さだこみたいな心霊写真を想像していたんだけど、どうやらその幽霊は変顔してるみたい」

 苦笑いの彼は背負っていたリュックからカメラを取り出した。


「変顔って余計気になる! 映るかなぁ」

 春樹はるきは楽しそうに未だ手を繋いでいるのぞみに笑いかけた。彼女はもう気にしていない様子で、辺りをキョロキョロ見回す。

「うーん、どうだろ。今のところはなにもえない。秋斗あきとはどう?」

 希の隣まで秋斗は来ると、首を横に振った。

「いや、俺も視えない」


「写真撮ろうとしたら急に出てくるかもね」

 水分補給をしていた渡辺わたなべが呟いた。滝の近くで多少涼しいとはいえ、今日も三十度近い気温で暑い。渡辺はカバンからタオルを取り出し、首にかけた。

 

 春樹が撮影係を申し出て、他の五人で並ぶ。とりあえずカシャリッと一枚。

 カメラの画面をのぞき込むと、そこにはうわさ通り、変顔をした女性が映っていた。溝口、渡辺、武藤むとうはパッと顔を見合わせる。三人とも頬が上気し、興奮している様子だ。


「すっげぇ! ほんとにいる!」

「ね、やば! 嬉しすぎる!」

「初めてお目にかかれましたね!」

 三人が食い入るように写真を見つめるその横で、春樹は一人肩をおとした。

「なんでまた俺だけ視えないんだろ……」

 秋斗と希はまあまあと肩をポンと叩いた。


 霊感のある二人は幽霊が映っていた方向を見る。そこには宙に浮いた女性の霊がいた。長い髪を高い位置でポニーテールにした彼女は、半袖短パン姿。活発そうだな、と秋斗は感じた。

 幽霊は秋斗と希に気づくと、ものすごい早さで二人に近づく。ぶつかることはないのだが、思わずのけった。

 幽霊はなにやら言葉を発している。


「えっと、こんにちは。私とこの人は霊感があって、あなたのことが視えます。私は声も聞こえます」

 希が軽く手を挙げて幽霊の意識を向かせた。そのあと、秋斗に視線を向ける。

「『二人はあたしのこと視える!?』って言ってた」


 再び希は幽霊の方に向き直り、話を聞く体制に入る。秋斗には声を聞くことはできないが、口の動きや身振り手振りから、めっちゃ早口なんだろうな、と容易に読み取れた。

 一通り話終えたのか、幽霊はふぅと息を吐いた。希は春樹と溝口たちを呼び、幽霊のことを説明するみたいだ。


「今、ここに写真の女性がいます」

 手で示すと、溝口たちは「おおー! 視えないけど!」と瞳を輝かせた。写真では視えたようだが、実際は視えていない。そのあたりも彼らは今後研究していくのだろう。


 希が幽霊から聞いた話によると、彼女は生前この近くで事故にったようだ。仲良しの友人たちと旅行に来ていたらしく、楽しみにしていたのに初日に帰らぬ人となった。自分の名前も家族のことも、そのときの友人のことも覚えていないが、旅行に来て事故に遭ったという事実だけは記憶に残っている、とのこと。

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