第18話 心霊スポット調査②

 時刻は8時20分。一限は9時からなので、もう少し喫茶店にいられる。


「んで、どうする? この依頼」

 秋斗あきとは仕方なく友人二人に顔を向けた。探偵に丸投げされたこの依頼、とりあえずなにか案を考えなければいけなくなった。

「そうだなぁ、俺は幽霊えないからあんま役に立てないかも」

 春樹はるきは申し訳なさそうに肩をおとした。


 するとのぞみは、思い出したかのように突然手を打つ。

「ねえねえ、前にさ、霊感のある人と行動すればその時だけ霊が視えることがあるって佐伯さえきさん言ってたよね?」

 秋斗と春樹はすぐにそのときの会話を脳内で再生した。たしかにそのケースが多いと言っていたような気がする。


「言ってた言ってた! 秋斗と倉田くらたさんが一緒にいればあの三人も視えるようになるのかな。まあ俺が視えてないから確証はないけど」

「でもとりあえずやってみても良いかもな。霊がいる場所であの三人と一緒にいる」

 秋斗は腕を組み、うんと一つうなずいて賛同した。


「じゃあさ、今度の心霊スポット調査にどうせなら同行するっていうのはどう?」

 オカルト研究サークルの三人は、今度の休みに調査すると言っていた。丁度良いかもしれない。

 春樹は名案だ! と乗り気だ。

「ま、いいかもね。行くの面倒だけど」

 希もすぐに同意するが、最後にはいつも通りの文句(?)をつぶやく。


 今後の予定が決まったところで、早速秋斗は佐伯にメッセージを送った。すると一分もたずに返信がくる。


「お、佐伯さんなんだって? 俺たちのナイスアイディアめてる?」

 春樹は隣に座る秋斗の手元をのぞき込んだ。秋斗は画面を見えやすいように少しかたむける。

「『まあそれくらいしか案はないな』だとよ」


 初仕事、はて上手くいくだろうか?


 *


 今回調査する心霊スポットは、大学の最寄り駅から電車とバスを乗り継いで約2時間半ほどかかる場所にある景勝地けいしょうちだ。オカルトマニアたちの間では心霊スポットとして有名だが、秋斗たちからしたらそこは観光スポットであった。

 ホームページにはいくつかモデルコースが紹介されており、中でも一番人が集まるのが滝だ。新緑や紅葉、季節によって異なる雰囲気を楽しむことができる。


 溝口みぞぐち渡辺わたなべ武藤むとうの三人に続き、秋斗、春樹、希とバスを降りていく。

「わ~! こんなところに幽霊なんているのかな?」

 春樹は自然の空気をめいっぱい吸い込んだ。希も両手を広げて気持ちよさそうにしている。


 春樹が観光客のれについて行こうとすると、溝口が「こっちだよ」と指をさした。

 そっちは道路だ。一体どこへ向かうのだろう。

「知る人ぞ知る道があってね、そこに出るらしいのよ」

 スマホのマップを確認しつつ、渡辺が告げた。


 バスで来た道路を戻ると、トンネルが見える。そしてその近くになにやら階段があった。

「ここを通っていくよ」

 溝口が後ろを振り返って笑顔を見せた。これからなにが起きるのか楽しみでしょうがないのが伝わってくる。


 三人に続き、秋斗が一番に階段を下りる。足元は植物だらけで道もせまく、急勾配こうばいだ。それに地面も少しぬかるんでいて歩きにくい。慎重に足を運んでいった。

 階段を下りきると、川が見えてきた。橋などはなく、大きな岩を使って進むしかないようだ。


「みんな気をつけてなー!」

 溝口は一足先に渡りきり、声を掛けた。渡辺と武藤もそれに続くが、二人ともれたようにひょいひょいと進んでいく。

 秋斗は彼女たちが渡りきったあと、ゆっくりと岩をみしめていった。山登りもしたことないし、なかなかハードだ。やっと渡り終えるときにはどっと汗がふき出すのを感じた。


「みなさんすごいですね。あんな軽い足取りで渡って」

 関心の声をあげる秋斗に、はははっと溝口は笑った。

「まあね、色々な山や森は幽霊が出やすいからもう慣れたもんだよ」

 秋斗はまだ川の向こうにいる春樹と希に視線を戻した。春樹が前を歩き、希の手を引くようだ。のんびりと進む二人にイライラする様子もなく、先輩三人は温かく見守っていた。


「ふぅー、なかなか緊張するね」

 春樹はひたいの汗を左手でぬぐった。右手はまだ希の手をにぎったままだ。

「ありがと、後藤ごとうくん。もう手離していいよ?」


 ずっと握られていることが落ち着かないのか、希は疑問形で口を開いた。だが、そんな彼女の言うことを聞かず、春樹は手を離さない。

「道も険しいしさ、まだいいじゃん、ね?」

 希の顔をのぞき込み、またあざといを発動している。彼女はその圧に負けて、まあいいけどっと視線をそらした。


 秋斗は苦笑を浮かべる。先輩たちをチラッと見ると、三人とも顔がにやけていた。女性二人はきゃっきゃっと楽しそうに顔を寄せ合う。


「よーし、それじゃ先に進むか。もう少ししたら有名なあの滝が見えるんだけど、そこで幽霊の目撃情報があるんだ」

 溝口は再び歩き出した。


 まだ秋斗と希の目に幽霊は視えない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る