第17話 心霊スポット調査①

「オカルト研究サークル三年の溝口みぞぐちです。それから、三年の渡辺わたなべと二年の武藤むとう

 男性が代表して佐伯さえきに自己紹介をした。渡辺は彼の隣に座るショートヘアーの女性、武藤はその隣に座るロングヘアーの女性だ。


 溝口によると、オカルト研究サークルは会員全員で一つの出来事や現象を調べる形ではなく、好きな分野ごと班を作って自由に研究し、研究結果をサークル内や学園祭で発表しているそうだ。

 都市伝説やUFO、宇宙人、妖怪など様々なグループがあるらしく、中でも依頼人の三人は幽霊全般に関する調査をしているとのこと。


「三人とも霊感がなくて、不思議な現象が起こってもそれを立証りっしょうできないんです。だからなにか良い案はないかなと思って今回依頼しました」

 グッと身を乗り出し、溝口は言った。

 佐伯さえきは一通り話を聞くと、ふむ……と腕を組む。


「お待たせしました。ココア、コーラ、ジンジャーエール、アイスティー、レモンスカッシュ、いちごミルク、ブレンドコーヒーです」

 すると会話のタイミングを見計みはからい、たちばなが二階に上がってきた。彼は手際てぎわよく飲み物をテーブルに置いていく。オカルト研究サークルの三人の前にも飲み物が並んだ。きっと入店してすぐ飲み物を注文したのだろう。


 佐伯は用意されたココアを一口飲むと、幸せそうに顔をほころばせた。

「内容はわかった。具体的に今はどんなことを調べているんだ?」

 その問いには女性陣がこたえた。

「最近は心霊スポットの調査ですね。ネットの掲示板で心霊スポットを検索して、実際にそこへ行ってどんなことが起こるか検証する、みたいな」と渡辺。

「今度の休みには、ここから二時間半ほどの場所にある心霊スポットに行く予定です」と武藤。


「なるほどな。よし、じゃあまた詳細しょうさいが決まったら連絡する。連絡役は溝口でいいんだな?」

 溝口は注文していたレモンスカッシュをごくりと飲み干し、うなずいた。三人組は飲み終わったあと、お会計をしてすぐに店を出ていく。

 前回の依頼者同様、佐伯は依頼内容を聞いただけでとっとと話を終わらせてしまったのだ。


「オカルト研究サークルって、変人が多いってよく聞くよね?」 

 今までずっとだまって話を聞いていた春樹はるきが、うずうずとした様子で口にした。

偏見へんけんだろ。それよりも春樹、よく口はさまずにいられたな」

 秋斗あきとがぞんざいにそう言うと、春樹は少し目を細めた。

「俺だってちゃんと待てできるし」

「待てって、それもう犬じゃん」

 フッと笑うのぞみはアイスティーを優雅ゆうがに飲む。コースターの上に置くと、グラスについた水滴がすーっと落ちていった。


「それで、佐伯さん、今回はどんなことするんですか?」

 春樹が佐伯に声をかけると、彼女は顔をあげた。目をしょぼしょぼさせながら「ぬあ?」と間抜まぬけな声を出す。


 まさかこの人寝ていたのか? この数分の間。


「……あ、ああ、そのことだが、君たちの初仕事だ。依頼人を満足させられるよう策をってくれ」

「はあ……? 俺たちだけで解決しろってことですか」

 秋斗はあきれた表情だ。


「そういうことだ。私はなにぶん忙しいからな」

「忙しいって、いつもダラダラ寝てるじゃないですか」

 抗議の声をあげる秋斗に、佐伯はムッと頬をふくらませる。

「私はこれでも四年だぞ? 卒論をやらないといけないんだ」

 そう言って彼女は肩をすくめた。君たちにはまだこのツラさがわからんか、とこぼす。


「そっか、佐伯さんって四年生ですもんね! そりゃ忙しいですね!」

 上に三人の兄がいる春樹は、卒論で苦しんでいる兄たちの姿を見ているため、納得の声をあげる。そしてすぐに「あれ」と首をかしげた。

「そういえば佐伯さんは卒業後どうするんですか?」


 それは秋斗も気になっていたことだった。正直、彼女が真面目に講義を受けている姿が想像できないが、ちゃんと単位を取っているのだろうか。


「あー、そうちゃ……叔父おじの探偵事務所で働く」

 佐伯の叔父、宗介そうすけはらい屋だという話だ。佐伯が10歳のときに19歳と言っていたから、今は31か。


「おおー! 祓い屋の人ですよね、会ってみたいです!」

 実家が祓い屋の春樹は興奮した様子だ。しっぽがあったらブンブンと振り回していることだろう。

「ああ、今度会わせてやるぞ。て、そんなことより、依頼をどうするか考えたまえ諸君」

 変な口調でそう告げる彼女は、残りのココアを一気に飲み干すと、まるでビールでも飲んでいるかのようにぷはーっと息を吐いた。

「じゃ、よろしく頼むぞ」


「ちょっと、佐伯さん!」

 佐伯は秋斗の呼びかけに反応することなく、さっさと階段を下りて行ってしまった。


 ああ、もう、勝手すぎる!

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