第16話 どちら様だ?
住宅に囲まれた中に、小さな喫茶店がポツンと建っていて、その扉にはcloseの
気にせず中に入っていいからな、と電話で佐伯に言われた通り、秋斗は扉を引いた。カランコロンと綺麗な鈴の音が鳴る。
「いらっしゃいませ」
テーブルを
「
男性に
カチコチと規則正しく音を鳴らす店内の振り子時計を見ると、時刻は午前7時45分。時間と場所を指定してきた張本人の彼女はまだ来ていない。
「営業前だけど、はい。何か飲むかい?」
男性はメニュー表をテーブルの真ん中に置いた。遠慮することなく春樹は身を乗り出すと、「どれにしようかな~」と
「私はアイスティーをお願いします」
希はメニューにサッと目を通し、小さく手を挙げた。秋斗も続けて注文する。
「えっと、俺はコーラで」
「アイスティー、コーラ、君はどうする?」
まだ悩んでいる春樹に男性が問いかけると、タイミング良く入店を知らせる鈴が鳴った。雑に開けたからだろうか、鈴の音がさっきよりも若干
「おはよー」
眠そうに目をこすりながら現れた佐伯は、秋斗から席を一つ空けて座る。
「う、うーんと、ジンジャーエールで!」
やっと春樹も決めたようで、ピシッと手を挙げた。だがその顔はまだ迷っているように見える。飲み物くらいでなにをそこまで悩む必要があるのか、秋斗にはイマイチ理解できない。
そんな春樹の様子に、男性はくくっと小さく笑った。手のかかる子どもをしょうがないなぁと見守っているかのようだ。
「かしこまりました。茉鈴ちゃんはココアだよね?」
「もちろーん」
あくびをしながら
「ああ、そうだ。この人が店長であり、私の
佐伯は思い出したようにそばに立つ男性に視線を向けて紹介する。
「
と、彼は挨拶し、一階に戻っていった。
——橘が一階に戻って少しすると、またもや鈴の音が聞こえた。二階へ
佐伯は軽く手を挙げ、三人組を呼ぶ。
「おー、来たか。好きなとこ座ってくれ」
まるで自分の家かのように佐伯が振る舞うと、三人組は秋斗たちを不思議そうにチラッと見たあと、佐伯から二席間を開けて腰をおろした。
マッシュルーム頭の男性が口を開く。
「えっと……この人たちは?」
秋斗たちを手で示して佐伯に問う。
「サークルの新会員だ。一年の
得意げにそう言うと、春樹もちょっとどや顔をしていた。秋斗と希は軽く
いや、この三人こそどちら様だ?
秋斗が頭に疑問符を浮かべる横で、佐伯は長い髪を後ろにパサっと手でどけると、脚を組む。
「よし、じゃあ早速、自己紹介と依頼内容を教えてくれ」
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