第三章 新たな依頼

第15話 いいじゃん入ろうよ!

「どういうことですか」

 秋斗あきとはため息まじりにそうこぼした。

「どうもこうも、ただのサークル勧誘だが?」

 口の端をあげる佐伯さえきは机に両肘をつき、手を組む。そこにあごを乗せると、耳にかけていた髪が少し落ち、頬にかかった。


「楽しそう! いいじゃん入ろうよ!」

 秋斗とのぞみが複雑な表情で顔を見合わせる中、春樹はるきは案の定ウキウキとしていた。テンションの高い彼の周りの気温は、数度上がっている気がする。


 佐伯の秘密についても聞いてしまったし、これからなにかしら巻き込まれるとは思っていたが、サークルに入るのは想定外だった。

 でもここで春樹だけ入会させるのは、今後が心配すぎる。秋斗はアイコンタクトだけで希と意思疎通をおこなった。彼女も同じことを考えていたようで、苦笑気味に肩をすくめる。


「よし、後藤ごとうは決まりだな。葛城かつらぎ倉田くらたはどうする?」

 にやにやしながら問いかけてくる探偵を、秋斗はあきれたように見返した。秋斗と希が春樹を野放しにしないことを見透みすかしているようだ。


「……わかりましたよ」

 秋斗の言葉に佐伯はフッと鼻を鳴らし、希に視線を向けた。希は観念したようにうなずく。

「決まりだな。んじゃこれ」

 そう言って手渡された紙切れには、乱雑らんざつに電話番号とSNSのIDが書かれていた。裏側を見てみると、なにかのサークルのチラシだろう、『会員募集!』『初心者歓迎!』などの文字が見て取れる。

「三人の予定が合う日がわかり次第しだい、そこに電話してくれ。ほれほれ、早くしないと授業に遅れるぞ?」


 楽しそうに笑う彼女を尻目に、三人はあわただしくテントを出た。ここから商学部とうまでは地味に遠い。走らなければ授業に間に合わないだろうが、希はもうすでにあきらめモードだ。


「一限から必修は最悪だな。希、行くぞ」

 秋斗は彼女の肩をパシッと叩いた。教授が遅れて来ることを祈っておこう。

「倉田さん、頑張ろ〜」

 準備万端な春樹は希の手首をつかみ、そのまま走り出す。暑いと愚痴ぐちをこぼしながらも、彼女は抵抗することなく手を引かれていった。


 春から夏に変わろうとしている生温かい風が秋斗の背中を押す。地面をり、二人のあとを追った。


 *


 昼休みに三人のスケジュールを確認し、予定を合わせた。佐伯に言われた通り、電話をかける。

「朝か昼休みだったらいつでも大丈夫です」

「そうか、なら丁度いい。明後日、たちばな喫茶というところに8時集合だ」

 早速集合がかかった。


 たちばな喫茶は大学から歩いて10分くらいのところにある喫茶店だそうだ。なんとも、佐伯の叔父おじの友人が経営している店だとか。開店前なら貸切らしい。


 早起きしなきゃな、と秋斗はスマホのアラームを変更する。

 でも、わざわざ喫茶店を指定してきたのはなんでだろう。この前の話の続きか、今後のサークル活動についてか。いつもの探偵アジトでいい気がするが。

 なんにせよ、非日常が訪れようとしていることは確かだった。

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