第14話 サークル勧誘

 茉鈴まりんは幼稚園のころ読んでいた絵本を思い返してみた。

 なんかサンタさんっておだやかで優しいおじいさんのイメージなんだけど、目の前のサンタさんは態度悪いし、しっくりこない。


「そもそもなんで茉鈴を病気にするの? 茉鈴のことが嫌いなの? 好きなの?」

「もちろん好きだぞ」

 即答する疫病神やくびょうがみに、茉鈴は少し面食めんくらい、乾いた笑みを浮かべた。なんか告白されてるのに全然ときめかないんだけど。人生初告白が人じゃないなんて、なんだか悲しい。


「ツンデレってやつね……どうしたらやめてくれる?」

「ふむ……そう言われても困るな。オレはただお前が好きで、苦しんでいる姿を見たいだけなのだが」

 え、なにそれ。茉鈴はドン引きした。ツンデレじゃなくて、これはヤンデレというやつではないだろうか。いや、この場合はドSと表現するのか?

 なんにせよ、好きな人がつらそうにしているのが良いだなんてだいぶ変だ。


「茉鈴が苦しんでる姿じゃなきゃダメなの?」

「いや、別にだれでもかまわんが。お前は特に反応が面白いからな」

「えー、なにそれ……じゃあさ、なにか欲しいものとかはないの?」

 そう聞くと、疫病神は腕を組んで真剣に考え始めた。用意できるものだといいんだけどなぁ。なにを要求されるのか、茉鈴はベッドの上でそわそわとする。


「そうだな……はらい屋の男がいるだろ、お前がそうちゃんと呼んでいる奴だ」

「うん、いるけど。宗ちゃんが持ってるもの?」

「あやつが生き霊を祓ったときに出る呪恨じゅごんをくれるなら良いぞ」

「ジュゴン? んー、よくわかんないけどわかった! 聞いてみるよ。じゃあ、茉鈴をもう病気にしないって約束してね」


「それとこれとは話が違うな」

「なんでよ、今ので交渉こうしょうは成立でしょ?」

「いや、それなりの対価を払ってもらわねばオレは満足しないぞ」

「茉鈴の家そこまでお金持ちじゃないよ?」

「そうか……では、お前の体をもらう」


 は? 茉鈴が何か言うまでもなく、疫病神は近づいてくる。なんとかけようとするが、目の前まで迫り、茉鈴は目をつぶった。


 え、なにこの変な感じ。気持ち悪っ。


 目を開けると、そこに疫病神の姿はないが、頭の中に声が流れ込んできた。

「まさかこのオレが抑え込まれるなんて……」

「え、その声ってヤクビョウガミさん? どこにいるのさ」

 ベッドから降りて部屋の中をウロウロするが、どこにも姿はえない。するとまたもや、頭の中に疫病神の声が聞こえる。


「お前の体に憑依ひょういしている」

「な、なにそれ!」

「本来であれば、憑依すると体の持ち主の意識がなくなるのだが。お前の精神力が強すぎて乗っ取れなかった」

 憑依? 精神力?


「茉鈴、まだ起きてるのー? 早く寝なさいよー」

 茉鈴の部屋から声が聞こえたのか、母が扉をノックした。あわててベッドに潜り込む。

「はーい、もう寝るよ。おやすみ、ママ」

「おやすみー」


 明日も学校あるし、そろそろ寝ないと。それにヤクビョウガミさんの話はわかりにくいから、宗ちゃんにまた聞いてみよう。

 茉鈴は勝手に話を切り上げた。

「よくわかんないけどわかった。とりあえずこれで対価を払ったことになるんだよね? 茉鈴の体に入ってるんだから」

「え、あ、これで対価になるわけでは……」


 疫病神がまたブツブツと面倒なことを言いそうだったので、茉鈴は話を容赦ようしゃなくぶった切る。

「い、い、よ、ね? これで茉鈴が風邪ひいたらヤクビョウガミさんのこと嫌いになるから」

「なっ! そ、それは困る!」

「じゃあ、これで話はおしまい。契約成立! あ、どうせならサンタさんじゃなくてイケメンの姿が良いなぁ。よろしくね、ヤク!」

 強引に話を終わらせた茉鈴は目覚まし時計をセットし、眠りについた。


 *


「という感じでヤクは私の体の中に入って生活するようになった」

 佐伯さえきは一通り話し終え、ふぅと息を吐いた。

 春樹はるきは興味津々に、秋斗あきとのぞみなかあきれた表情をしている。

「強行突破感がすごい……」と希。


「あ、結局幽霊と神様の違いはどこにあるんですか?」

 春樹が質問する。

「話の中でも言ったが、幽霊は人や動物が亡くなった存在で、色がなく、人間は触れることができない。一方で神は人の願いから生まれた存在で、色があり、認識できれば人間も触れることができる」


「人の願い?」

「そうだ。例えば学問の神様っていただろう? 頭がよくなりますようにという願いから生まれたんだ。他にも、縁結びの神様は良い相手に出会いたいとか結婚できますようにとか、そんな願いから生まれる」

「なるほど~勉強になります!」

 春樹は楽しそうに肩を揺らした。


 ガサガサとビニール袋に昼食のゴミをまとめていた希は、もう三限始まるよね、と立ち上がる。秋斗もそれに続き、探偵アジトから出ようとすると、佐伯が突拍子もないことを言い出した。

「なあ、君たち。話の続きもあるし、いっそのこと探偵サークルに入らないか?」


「え!」「「はい?」」

 驚きながらも嬉しそうな春樹。秋斗と希は、また面倒なことが始まることを予期した。

 外で鳴り響く三限の予鈴よれいは、その合図かもしれない。



〈第二章 謎の神様 終〉

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