第13話 またお化けの話?③

 床に座っているのが疲れたのか、宗介そうすけは椅子をベッドのそばに移動させ、腰かける。

「この疫病やくびょうはエキビョウとも読んで、まあ漢字からわかるかもしれないけど病気のことを指してるんだ。だから疫病神っていうのは病気の神様ってこと」

「病気の神様? 変なのー」

 茉鈴まりんは眉根を寄せた。


「で、この疫病神が茉鈴を病気にしてるんじゃないかなって、僕は予想してる」

「え!」

 目をまん丸にして驚く茉鈴。まさか神様が原因で熱が出ているとは誰も思わないだろう。宗介は、そういう反応になるよね、と苦笑した。


「なんで茉鈴だけ?」

 不服ふふくそうに頬をふくらませる。

「んー、理由はわからないけど茉鈴が可愛いからじゃない? ほら、小学生って好きな子いじめたりとかするでしょ」

 不意打ちの可愛い発言に茉鈴の心はねた。宗ちゃんに可愛いって言われた! でも叔父おじめいでは結婚はできないのだ、残念ながら。

 って、そんなことはさておき。


「好きな子をいじめる、かぁ……あ! 順平じゅんぺいくんがいっつも奈々ななちゃんにちょっかいかけてる感じ?」

「順平くんのことも奈々ちゃんのことも僕知らないんだけど……まあそういうこと。疫病神がなにかの拍子ひょうしに茉鈴のことを気に入ったか、もしくは嫌いで、いたずらしてるんだと思うよ」

 宗介が話をまとめた。


「えー、病気はもちろんイヤだけど、嫌われてるのはもっとイヤだな」

「まあまあ、なんにせよ。その疫病神の姿がえないとなにも始まらないってことだよ」

「んー、いつか視えるといいんだけど」

 そしたら絶対言ってやるんだ。茉鈴の楽しみを奪うなって。


 ――それから一か月、特にイベントがなかった茉鈴は平和な日々を過ごしていた。だが、次に待ちかまえるは一大イベントの運動会。クラスのみんなに迷惑もかかるし、当日は絶対休むわけにはいかない。

「ヤクビョウガミさん、出ておいでー」

 茉鈴はベッドに入ると、最近よくこのセリフを言うようになった。いつか疫病神が姿を見せてくれると期待して。


 だが、疫病神が現れないまま、とうとう運動会の前々日になってしまった。だいたい行事のある二日前に茉鈴は熱を出すのだ。当日じゃないのは疫病神なりの配慮はいりょなのだろうか。

 そんな配慮は今はどうでもいい。なんとしてでも話をつけなければ。


「ヤクビョウガミさん、出ておいでー」

 今日もお馴染なじみの呪文をとなえると、目の前をぬるっとなにかが横切った。

 きた!

 茉鈴は体を起こし、その相手を認識すると、すぐに顔をしかめた。

「……なんでサンタさん? 今九月だよ?」


 疫病神と思われる奴は、茉鈴のベッドに平然へいぜんと腰かけている。しかもその見た目は赤い帽子に赤い服、白髭を生やしたサンタさんだったのだ。

 ヤクビョウガミさんってサンタさんなの?

 ……そんなわけないか。そのかん一秒。茉鈴は一人深くうなずき、納得する。


「子どもはサンタという者がみな好きだろ?」

 しゃ、しゃべった!? パチパチとまたたきをしながら、茉鈴はおそるおそる会話を試みる。

「え、ヤクビョウガミさんってしゃべれるの?」

「当たり前だ。聞こえない人間どもが多すぎるんだ」

「へぇ……そうなんだ……」

 って、そうじゃない。運動会になんとしてでも出るために病気にしないでって言わないと。


「ヤクビョウガミさん、茉鈴の学校、明後日運動会なんだ。だから風邪ひきたくないの」

 疫病神はふんっと鼻を鳴らすと、床にあぐらをかいて座った。

「なぜオレがお前の都合を考える必要がある」

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