第12話 またお化けの話?②

 小学校に入学したくらいから、茉鈴まりんの目には人間以外のものがえ始めた。これが絵本で見ていたお化けだ、と幼い彼女は認識する。霊感のない両親に話してもなかなか話が通じなかったが、唯一茉鈴と同じ目を持つ宗介そうすけは話し相手になってくれた。


 現在小三になった茉鈴は、よりお化けについて興味が出てきた。もしかしてこの風邪もお化けの仕業しわざなのだろうか?


 宗介は降参こうさんするように両手を挙げ、「わかったわかった」と了承してくれた。今日は一日大学がないという宗介。

 気になることを全部解消しよう、この機会をのがすまい。茉鈴は残りのおかゆをあっという間に平らげると、水を豪快ごうかいに飲み干した。

「よしっ、ごちそうさまでした」

 そして謎の気合を入れたのである。


 *


 宗介はまず、自分の右側を指さした。

「茉鈴、この幽霊は視える?」

「うん、視えるよ!」

 宗介の横に座っているのは男性の幽霊だ。自分のことを話していることに気づいたその幽霊は、手を挙げて茉鈴に微笑ほほえむ。なんだか優しそうな雰囲気だ。


 宗介は次に押し入れを指さした。

「じゃあ、あそこのは視える?」

「うーん、なにもいない」

 茉鈴は首を横に振る。


「おっけー、次は窓の外を見てみて。電柱の近くにはなにかいる?」

 窓から電柱を観察すると、電柱の陰に隠れるようにして女性の幽霊が視えた。

「あ! いるいる! 女の人だね」

 宗介は「そうだね」とうなずいた。女性の幽霊は道行く人に声を掛けようとしているのか、様子をうかがいながら何度も手を伸ばしている。でもその手が人にれることはない。茉鈴は窓から視線をはずした。


「右横に座る霊、押し入れの前にいる霊、電柱に隠れた霊、僕は今その三体が視えていた。けど茉鈴は、二体しか視えなかったよね?」

 再び押し入れを凝視ぎょうしする茉鈴だったが、やはり視えない。宗介の問いに対して茉鈴はコクリと首を縦に振った。


 どうやら人によって視え方に違いがあるみたいだ。茉鈴はベッドから立ち上がると、学習机の引き出しから自由帳を取り出した。ベッドに戻り、今の話をメモしていく。

『お化けのみえかた人それぞれ』

 幽霊って漢字は読めるけど難しくて書けない。この前調べてみたらどうやら中学生で習う漢字みたいだ。


「人間が視える幽霊に個人差があることはわかったね。そして、幽霊は人の姿をしてるとは限らないんだ」

 宗介による授業が再開され、茉鈴は耳をかたむける。

「人以外もいるの? 会ったことないかも」

 記憶をさかのぼってみるが、人以外のお化けには会ったことがない。


 他のお化けはどんな姿なんだろう?


「実は押し入れの前に視えてる霊は、猫なんだ」

 宗介が秘密を打ち明けるように人差し指を口元に持ってきてそう言うと、茉鈴も思わず声をひそめた。

「猫?」

「うん、幽霊には人だけじゃなくて猫とか犬、動物もいるんだよ」


 楽しそうに話す彼につられて茉鈴も自然と笑顔になる。新しい学びに瞳を輝かせた。『動物のお化けもいる』と追加でメモする。でもここで一つの疑問が浮かんだ。


 大人になったら視えるようになるのかな?


 口を閉ざしたまま頭にはてなを浮かべる茉鈴。宗介はエスパーのように、彼女の疑問に回答する。

「大人になるにつれて視える範囲が広くなる場合もあるし、逆に全然視えなくなることもあるかな。慣れてくるとコントロールできるようになるよ」


 茉鈴は宗介の話を聞き、『コントロールできる』とシャーペンを走らせた。

「コントロールってなに? どうやるの?」

「視たいときに視えるように調整できるってこと。僕は練習したらできるようになったんだけど、茉鈴にはまだ無理かも。もう少し成長したら教えるよ」


 子ども扱いされてむっとする茉鈴だったが、教えてくれると言ってくれたし、気長に待つことにする。『コントロールできる』の下に『そーちゃんに教えてもらう』と付け足した。

「今さらだけど、幽霊はみんな亡くなってる人たちだからね」

 宗介が確認するようにそう言う。

「それくらい茉鈴でもわかるよ」

「じゃあここからが本題。茉鈴はよく熱が出たりするよね? それは決まって遠足とか、茉鈴が楽しみにしている行事と同じ日で間違いはない?」

「うん、そうだよ」


 宗介は茉鈴のシャーペンを借りると、自由帳に『疫病神やくびょうがみ』としるした。

「神様も幽霊と同じで、霊感がない人には視えないんだ」

 説明を始めようとシャーペンを置くが、これじゃ読めないよね、とふりがなを加えた。『やくびょうがみ』と書かれたその文字を、茉鈴は指でなぞる。


「ヤクビョウガミ?」

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