第5話

「ん、あれ、もう終わっちゃったの?」

 春樹はるきがのんびりと顔を上げた。呑気のんきな彼の姿に秋斗あきとはため息をつき、教室を出ようと立ち上がるが、なにやらみょうな視線を感じて顔を動かす。如月きさらぎと目が合った。


 まさか、気づかれてる? いや、でも、探偵はともかく自分たちのことは何も知らないはずだ。ひたいを汗がつたった。

 写真で見たあの爽やかな笑顔はそこになく、如月の表情はひどく疲れ切っていた。


「やばい、四限遅れる! またあとで!」

 やっと覚醒した春樹があわてて席を立った。その声に驚いて秋斗は如月から視線をはずす。

 ふぅと心を落ち着かせ、佐伯さえきに続いて講義室を出ると、おずおずと口を開いた。

「あの調査って……」

「その話は戻ってからだ」


 そう言って北門の自動販売機の横、探偵アジト(秋斗が勝手に名付けた)に向かった。中に入ると少女の霊が佐伯にけ寄り、なにかを話している。佐伯は少女の頭を軽くなでた。

 のぞみだったらあの会話が聞こえるのだろうが、彼女も四限があるので『また話聞かせて』とメッセージが入っていた。


 椅子に座った佐伯は、秋斗を対面に座るよううながす。

葛城かつらぎは、人ならざる者が視えるな?」

「はい。人の霊が視えることが多いです。話すことはできないですけど」

「話せる奴なんてそうはいないさ。で、聞きたいのは調査方法だな」

 秋斗はうなずいた。


「ここにいる三人は私の使い魔だ。対象者の中に入り込み、記憶や深いところにある感情を読み取る」

「そんなことができるんですか……」

「まあな。それよりも、私が気になるのはそれだ」

 佐伯は秋斗を指さした。正確には秋斗の右肩あたりをするどい目で見つめる。


「それ、とは」

 希から言われて知っていることであるが、秋斗は認識していないため、問いかける形になった。

「なんだ、自分にいているものは視えないのか?」

 佐伯は少し驚いたように片眉を上げる。


「友人には生き霊がついていると言われていますけど。どうやったら自分でも視えるようになるんですか?」

「うーん、そうだな……私の場合は鏡を見ればいけるんだが。それか生き霊を飛ばしている奴が、本人には気づかれないようにしているのかもしれないな。なんにしても、早めにはらった方が良いと思うぞ」

 真剣な表情でそう言う彼女に、秋斗は「考えておきます……」とえ切らない言葉を残し、大学を後にした。


 *


 一人暮らしをしているアパートから徒歩5分のところにあるコンビニで、17時から22時までバイトをする。学生用アパートが多いため、大学生がよく来る。家飲みでもするのだろうか、夜は特に男女グループで酒やお菓子を買っていく人がいた。


「お疲れ様でした」

 バイト仲間にあいさつをし、従業員用出入口から店の外に出ると、コンビニの前のベンチに座っている人影があった。その人物は秋斗に気づくと、サッと立ち上がり、秋斗の進路を邪魔じゃまするかのように立ちふさがる。


「あなたは葛城龍太りゅうたの弟ですよね?」

 突然話しかけてきた人物は――如月しゅうだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る