第4話

「まーた面倒なことになってんじゃん」

 のぞみあめを口の中で転がしながら、愉快ゆかいそうに笑った。二限に同じ授業を取っている秋斗あきとと希は、大講義室の端の席に並んで座っている。


「まあでも、ここまできたらちょっと俺も興味出てきたというかさ」

「探偵に?」

「うん、だってその探偵のアジトみたいなところに霊が三体いたし、本人もおはらいできるって言ってたし。あの人も霊感あるんじゃねぇかなって。自分にいてる霊の見方とかわかるかもだろ?」

「あ〜そういうことね。その人にさっさとお祓いしてもらえばいいのに。今日はまた一段と生き霊の気配強いよ?」


 *


 百分という長い授業を終えたあと、希と大学内のコンビニに向かった。入口には二限に違う授業を取っていた春樹はるきが待っていた。彼は二人に気づくと大きく手を振る。

「おはよ~」


 三人はそれぞれ昼食を買い、外のベンチに腰かける。

「このあと倉田くらたさんも見にいこーよ。空いてるでしょ?」

 おにぎりを頬張ほおばりながら期待の目を希に向ける春樹。希はあきれた様子で秋斗を見てから、春樹の方を向く。

「私が居ても良いものなの?」

「んー、授業に同席するだけだから問題ないんじゃない?」


 秋斗はお前も来いと言わんばかりに希に視線を向ける。彼女はお茶を一口飲んではぁと息を吐き出した。

「行ってみよっかな。あ、でも、ちょっと離れたところにいた方がいいよね。私昨日その場にいなかったわけだし」


 そうして三人は昼食を終えたあと、如月きさらぎが受ける授業の教室へと移動した。大教室のため出席も取らないし、教科書もないらしいので不自然にならずに済む。

 秋斗と春樹は佐伯さえきの姿を見つけると、そのすぐ後ろに並んで座った。希は少し離れた席に着く。


「佐伯さん、こんにちは。いよいよ調査ですね」

 春樹は小さな声で佐伯に話しかけた。

「そうだな、もう一度言っておくが、暇だからな」

 佐伯は、前の方に座る如月を見ながらこたえると、大きなあくびをした。


 秋斗の目には佐伯の肩に昨日と同じ鳥の霊がえていた。授業が始まって三十分もすると、春樹は顔をせて寝始める。自分が一番乗り気なクセに、と秋斗は肩をすくめた。佐伯は後ろをチラッと振り返り、春樹が寝ていることを確認すると、秋斗の方をじっと見てきた。


 な、なんだ。

 秋斗はその力強い瞳に背筋せすじがぞわぞわするのを感じた。秋斗から視線をはずした彼女は、鳥の霊を触り、口を動かす。声は聞こえなかったが「行け」と言ったように見えた。


 鳥は如月に向かって飛んでいったかと思うと、そのまま彼の体へと吸い込まれていった。思わず、言葉にならない息がれる。

 数分後に彼の体から鳥が現れ、再び佐伯の肩に乗った。すると、彼女はもう仕事は終わったとばかりに春樹と同じ体勢をとった。


 なにがなんだか、わからなかった。秋斗は机の下ですぐさま希に連絡しようと画面を開くと、タイミングよく彼女からメッセージが届いた。

『ちょっと、なにあれ』

『霊が体の中入ってった、よな?』

『そうそう、どういうこと?』

『わからん、俺に聞くな』


 この気持ちを共有したくてメッセージを送り合う二人だったが、要領ようりょうを得ないやりとりだとわかり、スマホをしまう。

 あれが調査なのか? 秋斗と希があごに手を置いた全く同じポーズで考えをめぐらしていると、あっという間に授業終わりのチャイムが鳴ってしまった。

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