17. お願い

「ユイちゃん!」


 千代子に抱き着かれ、ユイは相変わらず手の置き場に困る。が、他のメンバーの視線を感じ、宙に浮かせたままなのも、逆に不自然な気がしたので、千代子の腰に手を回す。


「良かったぁ。急にいなくなるから、心配したんだよ?」


「ごめんね。ちょっといろいろ事情があってさ」


「まぁ、積もる話があるかもだけど」と爽やかイケメンの銀次が言った。「ちょっと目立つし、場所を移した方が良いんじゃない?」


「そうね」


 辺りから視線を感じる。テラス席と言うこともあり、往来の冒険者たちが足を止めて、千代子たちを見ていた。


「もしかして、あの子って」


「そうだ。ユイちゃんだ」


 そんなささやきも聞こえ、7人はそそくさとその店から離れた。ユイはフードを深く被り、周りを千代子たちに囲まれる。彼女たちの気遣いをありがたく思った。


「で、どこに行くよ?」とギャル風の南波。


「ん。とりあえず、カラオケでいいんじゃないかな」


 銀次の提案で、カラオケボックスへ移動する。このダンジョンには、冒険者の息抜きのためにカラオケボックスなども用意されていた。むろん、友達がいないユイは、カラオケの存在をこのとき知った。


(友達とカラオケか)


 初めての体験にユイの心が躍った。


 カラオケに到着。広めの部屋に案内され、ユイはようやく一息つくことができた。


「ユイちゃんさぁ、何か歌う?」


 南波からタブレットを渡されるも、ユイは首を振る。


「ごめん。人前で歌うのは、あんまり得意じゃなくて」


「あ、そうなんだ」


「ってか、そんなことをしている場合じゃないでしょ!」と千代子がツッコミを入れる。「ユイちゃん、どうして急にいなくなったの?」


「うっ、それは……」


 どこまで言うべきか悩む。違反行為の件もあるから、下手なことが言えない。


「言いにくいことがあるなら、無理して言わなくてもいいよ」


「……ありがとう。うん、まぁ、ユイにはちょっと特殊な事情があって、保安局の人と会うのは不味いんだ」


「そうなんだ」


「訳アリの美少女ってことか。これは、ワクワクするね」


「こら、とーこ。そんなこと言わないの。ユイちゃんだって、大変なだから」


「はーい」


「それにしても、すごいね、ユイさん。トムさんはともかく、あの銀獅子まで倒しちゃうなんて」と銀次。


「う、うん。たまたまだよ」


「たまたまで倒せるような相手じゃないと思うんだが……」とお洒落坊主の日々気が呆れる。「ユイさんって、レベル17なんでしょ」


「あ、それなんだけど、ちょっと勘違いしてて、レベルは42かな。17は、ユイの歳だった」


「42!? しかも俺たちと同じくらいの歳で!? ユイさんって、今年高3?」


「ん。高2かな。昨日、誕生日だった」


 と言うことにしておく。


「俺たちと同じ学年で42!? 控えめに言って、化け物だろ……」


「へへっ」とユイは照れくさそうに笑う。日々気のオーバーなリアクションが、少し楽しかった。


「ユイさん~。レベル上げの仕方を教えてくれよ~」


「それはちょっと、ごめんなさい。調整が入ってしまうかもしれないので」


「ぐぬぬぬ」


「私も、この年代にしては、高い方だと思っていたけど、上には上がいるものね。ユイちゃん、ありがとう! ユイちゃんのおかげで目標ができた気がする」


「どういたしまして、なのかな?」


「ねぇ、ユイちゃん。ユイちゃんは私に何かやって欲しいこととかある?」


「え、何で?」


「いや、その、お礼とかちゃんとしたくてさ。ユイちゃんには助けてもらったし」


「いいよ、そんなの」


「いいから、私の気が済まないの」


 千代子は譲らないようなので、断り続けるのも悪い気がした。


(と言っても、お礼とかとくにいらないな)


 それが目的で千代子たちを助けたわけじゃない。でも、千代子の気が済まないらしいので、何か提案した方が良いのだろう。ユイは悩み、丸子が持っているドローンに気づいた。


「あ、それじゃあ、1つだけ、お願いしても良いかな」


「何?」


「……その、チョコちゃんの動画に出演してみたい」


「……その言葉を待っていたよ」


「え」


 反応したのは、東子だった。東子は眼鏡を不気味に光らせて、くいっと上げた。


「安心して、ユイちゃん。すでに完璧なシナリオができているから」

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