14. S級モンスター
トムを一撃で倒したユイ。満面の笑みを、トムの仲間たちに向ける。
「さて、次は誰がユイの相手をしてくれるんですか?」
仲間たちは苦虫を嚙み潰したような顔で後ずさる。実力差を理解できないほどの馬鹿ではないらしい。
「ま、待て」
振り返ると、トムが青い顔で肩を膝ついていた。ダメージは相当なもので立ち上がることができない様子。
「何ですか? あなたとの勝負はつきましたけど」
「まだ終わってねぇ!」
「いや、終わったでしょ」
「これを見ても、同じことが言えるかな」
トムが不適な笑みで、手のひらに収まるサイズの、紫色の光が閉じ込められたガラス玉を見せつけた。
「トム、それは駄目だ!」
「止めてくれ、トムちゃん!」
仲間たちが制止するも、トムは血走った目で唾を飛ばす。
「嫌だね。いいか、これは魔獣ボールだ。こいつを割ると、中に封印されているモンスターが召喚される。しかも、今回はレベル70の銀獅子。お前なんか、一瞬で食われちまうぜ」
「はぁ、そうですか」
レベル70の銀獅子とか今更怖くない。だから、ユイの反応は渋かった。その反応に、トムは焦る。
「いいのか!? レベル70の銀獅子だぞ! S級のモンスターだぞ!」
「べつに」
「……あぁ、わかった。なら、召喚してやるよ」
「止めろ! トム!」
「そうだ! そいつは企画で使うやつだろ!」
「関係ないね。俺は、このムカつく奴を殺すために、銀獅子を召喚する!」
「おい、誰かトムを止めろ!」
トムの仲間たちが駆け出した。しかし、トムは地面に魔獣ボールを置くと、拳を振り下ろして、玉を叩き割った。――瞬間。閃光が走り、辺りが真っ白になった。視界が正常に戻ったとき、トムを巨大な影が覆う。トムの後ろに3メートルほどの巨大なライオンがいた。銀色の鬣をたなびかせていたが、4本の足で立ち上がると、大きく息を吸い込んだ。
(咆哮か!)
次の攻撃が予想できたユイは、両手を地面につけて『土遁の術』を発動した。土を操る忍法で自分と千代子たちの前に砂の壁を作る。そのタイミングで、銀獅子が咆哮を放った。鳴り響く銀獅子の雄叫び。その雄叫びは、衝撃波を含み、トムたちは吹き飛んで空気が痛いほど震えた。鳴りやむ咆哮。ユイが砂壁を崩すと、悠然と構える銀獅子の姿があった。
「きゃあああああ!」と東子の悲鳴が上がる。見ると、トムの仲間が素っ裸で東子たちに助けを求めていた。「何で、裸なんですか!?」
「ち、違う。これは、奴の攻撃で」
ユイは銀獅子に視線を戻す。
(こいつ、エッチな攻撃ができるのか。なら、さっさと倒さないと!)
ユイはエッチな攻撃に厳しかった。ふとした衝撃で、男に戻ってしまうかもしれないからだ。冴えない男子の恥ずかしい姿など、誰も見たくないだろう。
ユイは再び『土遁の術』を発動! 銀獅子の足元に蟻地獄が発生。銀獅子は跳んで避ける。が、砂の手が銀獅子の後ろ足を掴み地獄に引きずり込んだ。瞬く間に銀獅子の下半身が砂の中に沈み込む。上半身だけでもがくが、抜け出せない。ユイは右手を高く掲げた。砂が集まり、回転しながらピッツァのように薄く広がる。砂鉄を多分に含んだそれは、砂のチェーンソー。それは『土遁の術』で作ったものだったから、これといった名前は無い。しかし敢えて名付けるなら、『砂鉄斬』。ユイが砂鉄斬を放ち、殺意の塊が銀獅子を襲う。銀獅子はそれを両前足で受け止めた。レベル70の防御力。そう簡単には斬れない。しかし、回転し続けるそれで、徐々に切り込みが入る。
「流石だね。でも、これならどう?」
銀獅子はユイを見て、絶叫する。その頭上に、無数の砂鉄斬。絶望する銀獅子に、ユイは微笑みかける。
「それじゃあ、行ってみよう!」
無邪気な笑顔から放たれた無慈悲な殺意で、銀獅子の体は切り裂かれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます