11. クラス替え

 4月。進級の季節。半蔵は勉強よりダンジョンを優先していたせいで、成績はボロボロだったが、何とか進級できた。周りが騒がしい中、控えめに教室に入る。自分の席に座り、外を眺めた。去年の同じ時期に、女性と話せるようになろうと思った。が、1年経って、その目標は達成できていない。


(年上の男とは話せるようになったんだけどな……)


 それを成長だと前向きに捉えてみる。


「あれ~。門夜じゃん。何で、ここにいるの?」


 聞きたくない奴の声が聞こえ、半蔵はうんざりする。大志だった。大志が友達を2人連れて、半蔵の前にやってきた。


「何でって、ここが俺の教室だからだけど」


「げっ、お前と一緒のクラスかよ。最悪だわ」


「なぁ、大志。この人って」と後ろにいた友達が言う。


「前にダンジョンで会った根暗」


「ああ、やっぱり」


「そういえば、お前、あれからダンジョンに行ってるの?」


「ん。まぁ」


 正直、行き過ぎているくらいだが、それについて話すと、違反行為がバレるかもしれないので、適当な言葉でお茶を濁す。


「今、レベルはいくつなの?」


「17だけど」


 免許上はそうなっている。


「17!? まだ、17なの? こいつ17だって!」


 大志たちが笑う。半蔵はため息で応戦したかったが、堪える。本当のことを話すわけにはいかない。今は我慢のときだ。


「江戸沢はどれくらいなの?」


「18」


「1しか変わんないじゃん」


「馬鹿。知らねぇのか? このレベル帯になると、1の差が大きな差になるんだよ」


「ふぅん」


 一瞬で通り過ぎた半蔵には、その大変さがよくわからなかった。


(あぁ、喋りてぇ)


 楽にそのレベル帯を抜ける方法について喋りたい。しかし、それを話したら、確実に調整が入るので、喋れない。


「ねぇ、ダンジョンの話?」


 突然、女子の声がしたので、ギョッとする。その相手を見て、さらにギョッとする。千代子だった。千代子が再び同じクラスで、しかも隣の席だった。


「あ、うん、そうなんだ」


 先ほどまで人を小馬鹿にするような顔つきだったくせに、千代子の前ではへらへらしているので、大志に唾を掛けてやりたかった。


「皆でパーティーを組んでるの?」


「いや、こいつは違う。いっつも、1人で行動してる」


「べつに1人じゃないけど」


「嘘つけ。じゃあ、誰と行動してんだよ」


「アプリとかで出会った人」


「へぇ、すごい。アプリ使ってるんだ!」


「え、あ、まぁ、はい」


「私、何か変な人が来たら嫌だなぁと思って、中々使う勇気が無いんだよね」


「そうだね。門夜みたいなやつが来るかもしれないし」


 半蔵がにらみつけると、大志は見下すような目で見返してきた。


「え~。門夜君だったら、普通にOKだよ」


 半蔵はドキッとして、千代子の顔を見ることができなかった。わかっている。これは彼女なりのお世辞だ。だから、本気にしてはいけない。


「うわぁ、古奈田さんって趣味悪いんだね」


「ちょっと、それどういう意味?」


「古奈田さんもダンジョン探索をしてるんでしょ?」


「うん。あ、もしかして、チャンネルを見てくれてるの?」


「うん。参考にしてる」


「ありがとう!」


「今度、一緒に探索に行こうよ」


「そうだね。機会が合えば、ぜひ」


 大志たちが千代子と話し始めたので、半蔵は席を立つ。その場にいるのが苦痛だった。教室を出ようとして、女生徒とぶつかりそうになる。


「あ、すみません」


 相手を見て、半蔵は驚く。三子だった。いつものクールな瞳で見返してくる。


半蔵は多少の気まずさを覚え、「……ぅす」と軽く頭を下げると、さっさとその場から離れようとした。が、「ねぇ」と話しかけられる。


「はい」


「あんたもこのクラス?」


「まぁ、そうですね」


「ふぅん。私もこのクラスなんだけど」


「……はぁ、そうなんですね」


 2人の間に沈黙が流れる。半蔵はこのままではいけないと思い、話題を探そうとしたが、三子が教室に入っていった。ありがたいような申し訳ないような複雑な気持ちで、歩き出す。


(知り合いが多いクラスになってしまったな)


 しかし、知り合いが多くても、青春らしい青春を送れそうにないのが、悲しいところだ。むしろ、大志にいら立ち、千代子に緊張する毎日を想像すると、マイナスにすら思う。


「……はぁ」


 適当に時間を潰してから、教室に戻る。自分の席の周りに大志はいなかった。隣の席に、千代子は座っているが。


半蔵はできるだけ千代子の方を見ないようにして席に座った。そのまま窓の外を眺めていると、シャーペンで肩をつんつんされる。目を向けると、千代子が微笑んだ。その笑顔は心臓に悪い。


「また隣の席だね」


「……そうっすね」


「さっきの話は本当なの? アプリでパーティーメンバーを探しているって」


「ん。まぁ、一応」


「アプリで会うってさ、どんな感じなの? 私、使ったことないからさ」


「どんな感じ。どんな感じ? うーん。どんな感じ……」


 答え方がわからない。というか、千代子が普通に話しかけてくるので、そこでも戸惑ってしまう。千代子を見ると、興味津々といった感じの顔つき。納得するまで話す必要がありそうだ。


(担任ー! 早く来てくれー!!)


 救世主が現れることを願いながら、半蔵は冷や汗を掻き続けた。

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