10. レベル上げ

 目的の薬『技術力超強化薬』を手に入れた半蔵は、早速、迷宮レアスライム狩りに出かけることにした。薬を飲んで、人気のない裏路地で小鳥に変身する。最初はうまく羽ばたくことができなかったが、持ち前の要領の良さを発揮し、動画で見た翼の動きを真似しているうちに、飛べるようになった。そのまま飛び立ち、はじまりの街の上空を舞う。外壁を超え、街の外に出た。バレたら一発で免停の領域。半蔵は覚悟を決めてノース鉱山帯を目指す。


 はじまりの森の上を飛んでいると、殺気を感じた。上空に迷宮イーグルが飛んでいた。なので、迷宮イーグルに変身する。すると迷宮イーグルは驚いて、どこかに飛んでいった。はじまりの森をすぐに超え、ノース鉱山帯に到着。探索用ルートの入口付近に着地して変身を解く。いったん、人間の姿で鉱山の中を進むことにした。中に入る。岩肌がむき出しの洞窟だった。等間隔で電球が設置されているため、それなりに明るい場所だったが、ところどころ、割れている電球もある。モンスターが割っているのかもしれない。


 調べた情報をもとに、迷宮レアスライムの目撃情報がある場所へ向かう。道中で、人やモンスターの気配を感じたら、岩に化けてやり過ごした。そして、とくに戦闘に巻き込まれることなく、目的の場所に到着する。が、先着の冒険者がいた。岩に化けて、様子を伺う。どうやら彼らも、迷宮レアスライムを探しに来ているらしい。成功率が高くないとは言え、経験値がおいしいため、ロマンを求めて探しに来る冒険者も多い。


(邪魔だな……)


 半蔵が煩わしく思っていると、近くにある穴に気づいた。幅は人間の拳くらい。迷宮レアスライムは人間に追いつめられると、こういった穴の中に逃げ込むらしい。だから半蔵は、迷宮レアスライムに変身し、穴の中に入って奥へと進んだ。スライムでの移動方法は、試着室で学習済みだ。


 明かりのない暗い道を進んでいると、前方に影。半蔵は目を凝らしてその姿を確認した。光の関係で灰色に見えるが、光沢の感じから迷宮レアスライムだと認識する。


(キタッ!)


 喜ぶのも束の間のこと。穴の中では、狭すぎて求愛ダンスが踊れない。しかし、仲間だと認識してもらえるかどうかを確かめるため、接近を試みる。1メートルほどまで近づいたところで、迷宮レアスライムが爆速で逃げ出した。冒険者から逃げ出すときの様相。どうやら、変身していることがバレているらしい。


(もっと、リアリティが必要ってことか)


 半蔵は一度穴から出て、見たばかりの迷宮レアスライムの体の質感などを思い返し、想像力を高めた。そして、『変化の術』を試みる。うまく変化できたかはわからなかったが、リアルに近づけたことを願いながら、再び穴の中を進んでいく。すると、開けた場所に出た。電球のない閉鎖的な空間。冒険者にはまだ見つかっていない場所のようだ。そしてその場所に、迷宮レアスライムがいた。先ほどの個体だろうか。部屋の中央でじっとしている。


 半蔵は少しだけ近づいて、止まる。先ほど逃げられたのは、バレたからではなく、同族に対しても強い警戒心があるからかもしれない。だから、少し離れたところから求愛ダンスを踊ることにした。


 迷宮レアスライムを含む迷宮スライムの仲間には、パートナーと認めた相手と一時的に核を融合し、情報を共有する習性があった。そして、パートナーとして認められるために行うダンスが求愛ダンスである。核を融合する様が生殖行為に見えることから、学者がそう名付けた。迷宮レアスライムで求愛ダンスが行われているとの報告は無かったが、他の迷宮スライムと同様の習性を有していることを信じ、半蔵はここまで来た。


 半蔵は緊張しながら求愛ダンスを踊る。ダンスと言っても、体を大きく見せたり、縦や横に規則正しく動かすだけだ。この動きは、はじまりの森にいた迷宮スライムを観察して学んだ。試着室の鏡の前で動きも確認している。後は信じて動き続けるしかない。


 迷宮レアスライムが動き出した。体の一部が盛り上がって、こちらを見ている気がした。迷宮レアスライムに目という器官があるかは知らないが、視線は感じた。そしてしばらくすると、迷宮レアスライムも求愛ダンスを踊り始めた。半蔵の動きとは若干違う。


(合わせろってことか?)


 初めての事象に困惑しつつも、半蔵は目の前の迷宮レアスライムと同じダンスを踊った。踊り続けていると、迷宮レアスライムがじりじり近づいてきた。だから半蔵も、じりじり近づく。お互いの体が触れる距離まで近づいた。迷宮レアスライムが躍るのを止めて、半蔵の体を覆うように広がり始めた。ひんやりと冷たい。半蔵がじっと受け入れていると、中に何かが入ってくる感触があった。


(核か!?)


 異物が侵入してくることに、ある種の嫌悪感と違和感を覚えたが、半蔵は機会をうかがうために耐える。そして、迷宮レアスライムの球体が半分ほど入ってきたところで変身を解き、核を忍刀で切り裂いた。迷宮レアスライムが驚いて爆速で離れる。ウニのような形態で暴れていたが、しばらくすると、体が溶けだして、霧散した。その場には、大きめの魔鉱石が残る。


(やったのか?)


 そのとき、半蔵は目が覚めるほどの熱を内側から感じ、眩しいほど体が光った。今までに感じたことがないほどのレベルアップ。勢いで髪が逆立つほどだった。数秒で光は収まるも、心臓は高ぶっていて、しばらく動けなかった。


(……レベルを確認しよう)


 半蔵は簡易レベルチェッカーで自分のレベルを測定し、目が飛び出そうになる。レベルは20。一瞬でレベルが5も上がった。


(こりゃあ、ロマンを求めちゃうわけだ)


 半蔵はにやける。素晴らしいレベルアップの方法を見つけてしまった。しかし、この方法を人に教えることはないだろう。確実に調整が入るからだ。


(さて、この調子でレベル上げを続けよう。時間が無いし)


 半蔵は迷宮レアスライムに変身すると、再び獲物を求めて、ノース鉱山帯をさまよい始める。


 そして半蔵は、1日でレベル30になった。


 薬を飲まずとも変身できるようになると、ノース鉱山帯以外の場所も探索するようになった。むろん、急にレベルが上がったりすると怪しまれるので、関所は通らずに外に出る。東に珍しいアイテムがあると聞けば東に飛び、西に便利な魔導書をドロップするモンスターがいると聞けば西に飛んだ。


 そんなことを繰り返しているうちに、半蔵のレベルはカンストした。レベルチェッカーで測定しても、『00』と表示されてしまうが、『変化の術』を極めたことで、レベルさえも自由に調整できるようになったので、とくに問題なかった。また、女性やモンスターに変身できるのはもちろんのこと、ただの剣を宝剣に変化させることもできるようになった。もちろん、宝剣の特徴を再現することもできる。


 控えめに言って、最強の存在になった半蔵だったが、悩んでいることがあった。


 いくら強くなっても、女性の目を見て話すことができないままだった。

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