3. 決意
その日の夜。半蔵は自分が女性になる方法について調べた。そして、自分にできそうな方法として見つけたのが、『女装』だった。
(まぁ、これならできそう)
しかし、女装について調べてみると、多少の煩わしさを感じた。化粧するのが面倒くさいし、女装するための道具を集めるのが大変そうだった。
(それに、道具が親に見つかったら、面倒だ)
部屋の掃除は自分でしているが、何かのきっかけで見つかるかもしれない。だから、できるだけ自分の部屋には女装に関する物を置きたくない。
(でも、道具を使わずに女装する方法なんてあるわけないよな)
それからいろいろ調べていると、あるチャンネルに行きついた。『ラブリー・ジョンの変身講座』である。美容系の男性配信者が、『忍法――
(『変化の術』か。これなら、道具が必要ない。でも、ダンジョンか……)
半蔵のダンジョンに対するイメージは『危険な場所』だった。だから、積極的に関わろうとは思わない。
(やっぱり、道具を買って――)
そのとき、おすすめ動画の中に見知った顔を見つけ、半蔵の手が止まる。
半蔵はチャンネルの概要を読む。チャンネルの名前は『レールバスターズ』。このチャンネルは、高校生の男女6人組がさまざまな企画に挑戦することを趣旨としていて、活動自体は中3から始めており、ダンジョン関連の動画は最近アップし始めたようだった。チャンネル登録者数は20万人で、同年代のファンが多いらしい。
(……眩しすぎんだろ)
半蔵は画面を直視できなかった。同い年のはずなのに、生きている世界が違いすぎて、自分が惨めに思えてくる。自分が女性とどうやったらうまく喋れるのか考えているときに、彼女たちは青春を謳歌しているのだから。
(ってか、ダンジョンって高校生でも行けるもんなの?)
そこで半蔵は、ダンジョンについて調べ、以下のことがわかった。
15年前。世界各地で異世界への門が発見され、その門を通れば、魔力が満ちた世界に行けることがわかった。日本でもリニアのトンネル工事中に異世界への門が発見され、マスコミがこの異世界のことを『ダンジョン』と呼び始めたことで、この異世界はダンジョンとして認知されるようになった。当初は、ダンジョンを調べることに対して慎重な意見が多かったが、ダンジョンで入手できる『魔鉱石』の存在によって風向きが変わる。魔鉱石は、莫大なエネルギーを獲得できる上に二酸化炭素などを排出しないエコな資源として注目された。そして、アメリカが魔鉱石を用いた電力発電に成功したことで、日本でも積極的に魔鉱石が採掘されるようになる。また、他の資源を求めて探索も行われるようになり、『冒険者免許』を有する者は誰でもダンジョンを訪れることができるようになった。この『冒険者免許』は、15歳以上で冒険者試験に合格した者は取得できるため、千代子たちも中学校を卒業したタイミングで免許を取得したようだ。
(ダンジョン探索を禁じている高校も多いみたいだけど、うちは大丈夫なんだ)
念のため確認してみる。ダンジョン探索を禁じているような文言は無かった。服装や髪型は自由だし、バイトも禁止されていないこの高校では、ダンジョン探索も禁止にはなっていないようだ。
(生徒の自主性を重んじすぎだろ)
しかし、そんな高校だからこそ、千代子たちは選んだのかもしれない。
半蔵は、もう一度千代子のダンジョン紹介動画を見る。キラキラと輝く彼女たちを見て、自分もそんな青春の一部になりたいと思う。が、女性に対して苦手意識がある今の状態では、絶対に無理だ。
(なら、克服するしかないよな)
半蔵は大きく頷き、女性に対する苦手意識を払しょくする決意を固めた。その方法として、ダンジョンで『変化の術』を使うことを採用する。ダンジョンなら、ワンチャン、千代子たちとも仲良くなれるかもしれない。
試験を受けることにした半蔵は、未成年の場合、保護者の同意が必要だったので、親に相談する。
「ふーん。いいんじゃないか。若いうちはいろんなことに挑戦した方が良い」と父親。
「そうね。冒険者になれば、その後の就活でもきっと役に立つわ。ただ、やるなら徹底的にやり抜きなさいよ」と母親。
2人からあっさりと許可を貰えたので、試験に向けて準備する。試験では、筆記試験だけではなく、体力試験も課される。だから、ダンジョンの勉強だけはなく、体力づくりにも励んだ。
そして夏休みになると同時に試験を受け、一発で合格。晴れて冒険者となった半蔵は、すぐにダンジョンへ向かった。
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