2. 入学式
4月。高校の入学式。
(べ、べつに友達とかいらねーし)
心の中で言い訳をしながら。
半蔵はちらりと教室を見回した。知らない顔が多い。同じ中学校の生徒も何人かいたが、話したことが無いため、わざわざ話しかけようとは思わない。別の教室に行けば、数少ない中学時代の友達もいるが、初日から彼のところに行ったら、友達ができない奴だと思われかねないから、プライドが拒む。
気配を感じ、隣を見て、半蔵は息を呑む。金髪ツインテールの女の子だった。目元が涼しげで、凛とした印象を受ける。見ただけでわかった。彼女は一軍の人間だ。
そんな彼女と目が合う。慌ててそらそうとしたが、彼女の方から微笑みかけてきた。
「おはよう! これからよろしくね!」
「ああ、うん」
彼女はもう一度微笑むと、どこかに行ってしまった。
半蔵はドキドキしながら、机に突っ伏す。
(あんな可愛い子が隣かよ。ってか、金髪ってすげーな)
しかし、改めて教室を見回し、髪を染めている人がそれなりにいることに気づく。また、制服を着崩し、お洒落な格好をしている人も多い。生徒の自主性を重んじるこの学校では、服装や髪型が自由だった。
(入る高校間違ったかも)
そんなことを考えていると、再び気配。近くに来た人物を見て、顔をしかめる。
(そういえば、こいつも同じ学校だったな)
大志のにやけ顔を見ていると不快感が募った。
「よぅ、門夜。お前もこの学校だったんだな」
「あぁ、うん」
「さっきの見てたぜ。可愛い子だったな~。で、その子に話しかけられて、『ああ、うん』しか返せないとか、相変わらず、童貞臭いムーブかましてんな~」
「うるせぇ、余計なお世話だ」
「そんなんだから、友達ができねぇんだよ。どうせこの学校でも、寝たふりをしながら、斜に構えた青春を過ごすんだろ。相変わらず、かっけぇな」
「声がでけぇよ、馬鹿」
「ま、お前がそんなことをしている間に、俺は彼女を作って、ハッピーな青春を送らせてもらいますわ。じゃあな、根暗!」
大志はわざとらしく大きな声で笑うと、教室から出て行った。半蔵は恥ずかしそうに辺りを見回す。知らない女子が、自分のことを見て、くすくす笑っている気がした。
(あいつ、別のクラスのくせに、わざわざ嫌味を言うためだけに来たのかよ)
その執念は見習うべきかもしれないが、普通にウザいし、ムカつく。
(でも、あいつの言うことは一理あるんだよな)
女の子に話しかけられて、素っ気ない態度だったのは反省点だ。名前を聞くとか、出身中学について聞くとか、もう少し会話を広げる努力をすべきだった。
(でも、それができねぇんだよな)
半蔵は昔から女性が苦手で、まともに話せる異性は母親だけだ。
(ってか、それって普通にやべぇんじゃね?)
大志が言うように、このままでは斜に構えた青春を送ってしまいそうだ。それは回避したいところである。しかし、思っていた以上にキラキラしているこの学校で、人並みの青春を送るためには、女子との会話は必須になりそうだ。つまり、女子に対する苦手意識を克服しないと、ジ・エンド。
(何で、うまく喋れないんだろ?)
その理由についてもう少し考えてみる。会話がわからないのもあるが、そもそも、女子と話そうとすると、緊張して慌ててしまう。
(まずは、この緊張しちゃう癖を何とかしないと)
では、どうやってこの緊張する癖を直すか。手っ取り早いのは、女子に慣れることだと思う。つまり、たくさん女子に話しかければ、そのうち慣れていく。
(でも、女子に話しかけることができるなら、最初からこんなことで悩んでいないんだよな)
そもそも、なぜ緊張してしまうのか。男子に話しかけた場合と比較してみる。男子に話しかけたときはあまり緊張しない。相手が一軍とかヤンキーだったりすると、多少は緊張するが。それでも、女子に話しかけるそれに比べたら、大きな問題ではない。
(つまり、異性だから緊張してしまう)
なら、異性として意識しなければ、話しかけられるようになるのではないか。どうすれば、異性として意識せずに済むか。
楽しそうな雰囲気の中、半蔵は気難しい顔で考える。
そして、閃いた。
(――そうか。俺自身が女子になればいいんだ)
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