女装を極めた陰キャボッチの俺、最強になる~女の子になって人気配信者を助けたら、後戻りができなくなった~
三口三大
1. プロローグ
目が大きくて、黒髪を2つ結びにした可愛い女の子の名前はユイ。
(どうしてこうなった)
半蔵もといユイは、緊張した面持ちで前方のカメラを見据える。ユイは今、とあるチャンネルの動画撮影に協力していた。そして、カメラマンである黒髪おさげで丸眼鏡を掛けた少女、
「ユイちゃん! あんまりカメラを意識しないで! 自然な感じで行こう!」
「あ、うん。ごめん」
ユイは慌てて目線をそらす。意識しないでと言われても、これから自分がやられることを考えたら、それは難しい話だった。とにかく恥ずかしい。
隣を見ると、肩が触れるほどの距離に彼女がいた。金髪ツインテールで凛とした顔つきの少女。
「あんまりこっちを見ないでよ。緊張しちゃうじゃない」
「ご、ごめん。ただ、チョコちゃんはいいのかなと思って」
チョコは千代子が動画に出演しているときの名前だ。
「ん。まぁ、ユイちゃんには助けてもらったからね。ユイちゃんこそ嫌じゃない?」
「え、いや、ユイは別に嫌じゃないよ」
「そっか。なら、良かった」
安心したような笑みを浮かべる千代子の笑みにつられ、ユイも微笑む。しかし、笑っている場合ではなかった。彼女たちは、自分が本当は男であることを知らない。だから、バレたときのことも考えて、今のうちに撮影を止めるべきなのだが、初めてできた女友達の好意を無下にするわけにもいかないので、判断に迷ってしまう。
「それじゃあ、撮影行ってみよう!」
東子の合図で、千代子が頷く。彼女は恥ずかしそうにしながらも、動画で良く見る明るい調子で、ユイに話しかけてきた。
「ユイちゃん! はい、これ。私のお気に入りのクレープ」
始まってしまった。ユイは覚悟を決めて、役に入る。
「わぁ、ありがとう。すごい、おいしそうだね」
千代子が差し出してきたクレープを、ユイは戸惑いながらも、やや大げさなリアクションで受け取る。
「ここのクレープは、『はじまりの街』でも、一番お勧めのスイーツなんだ。『はじまりの森』でとれる『迷宮キイチゴ』を使っているんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
「さ、食べて」
千代子に促され、ユイはクレープを食べる。味は……正直、よくわからない。それどころではないからだ。ユイはクレープを齧りながら、うまく口元にクリームを付けると、驚いた表情で千代子を見返す。
「本当だ! とっても、おいしいよ、これ!」
「でしょ! あ、ユイちゃん――」と言って、千代子はユイの口元に口づけし、クリームを舐めとった。千代子は顔を真っ赤にしながら、「へへっ」と笑う。「クリームついてたよ」
一瞬の間があってから、ボンッと効果音が出そうなほど、ユイの顔が真っ赤になる。実際、体は熱く、頭の中は真っ白だった。覚悟はしていたが、千代子の口づけとその後の笑顔は想像以上の破壊力だった。
「……ユイちゃん?」
「ふえっ、あ、何?」
「ごめんね、急に。嫌だったよね?」
「ううん。そんなことないよ」とユイは勢いよく首を振る。むしろ、謝るべきは自分の方だ。男であることを隠して、こんなことをしているのだから。
「良かった~。それじゃあ、私も食べよっかな」
千代子がクレープを食べる。
「やっぱり、おいしいわ。ここのクレープ」
そう言って、満足に微笑む千代子の口元にはクリームがついていた。
ユイは東子に目を向ける。東子から『行け!』の合図。ユイは千代子の口元についたクリームを見て、ごくりと生唾を飲む。
(どうしてこうなった)
ユイ改め半蔵は考える。
そもそものきっかけは去年の4月のことだった――。
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