手が落ちるわけなどない

 夕方。

 家に着くとまだ誰もいなくて、うす暗い廊下には昼間の熱が残っていて、ムワッとしてた。まだ外は少し明るくて、僕は電気をつけず、洗面所へ向かう。

 ウチの石鹸は泡のハンドソープで、押せばすぐにフワフワの泡が出る。白いそれを手にまとわせてこすり合わせると、今日は妙に心地よかった。指の間もしっかりこすった。頭の中をこすってるみたいだ

 今日はちょっぴり嫌なことがあって。ホントなら、頭や手首もとれるのだけど。薬を飲んでるから、落ちることはない。

 ただ、どうしようもないこともあって、今日はそんな気持ちだった。蛇口をひねって、流れる水に手を差し込む。いつもと同じぬるい水。ぬめりが落ちるのを感じながら、ぼんやりしていた。頭の奥がずんと痛んだ。


 あぁ、手が落ちる。

 そんなはずないのに、そう思った。ただ、そのときにはもう遅くて。

 僕の両手は白く膨れた。まるで両手の甲にサンゴが生えたみたいに、手から骨が吹き出した。


 さっきと変わらず、僕の手をつたうぬるい水。

 それが妙に冷たく思えて、僕はぼんやり両手を見つめた。歪なそれに跳ねる水がピチャピチャと辺りを汚く濡らした。

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骨が沸いて おくとりょう @n8osoeuta

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