第2話 運命の出会い


三月になれば王立修学院も卒業です。ホントならそれを待ってジョナスと結婚となったのですが、私は故郷に帰る。こうなってよかったのだと心から思う。


新年のパーティー以降、ジョナスが怖くて学校には行けませんでした。私は部屋から一歩も出ていません。私の日々は王都を離れられるのを待つ、ただそれだけだったのです。


一ヶ月たった頃、お父様から手紙が届きました。王命が下ったようです。正式にジョナスとの婚約は破棄され、私には新たに婚約が決められました。お相手はデリック王陛下がお心を痛められたそうです。


あのパーティーからお父様の手紙が届くその間、ジョナスはお見舞いと称して花束を持って何度かここに来ました。どうせエイミーとの関係を口外するなと脅しに来たのでしょう。騒ぎになってカミラ殿下との婚約を邪魔されたくはなかった。


新たに私のお相手となったのはオルグレン辺境伯の令息ダリル殿ということでした。デリック王陛下とは偽りで、きっとジョナスの御父上で執政のゴドルフィン公が手を回したのです。


かたくなにジョナスと会うことを避けた私に対して危機感を覚えた。そして、これから先、私が何を言い出すかを恐れた。私の口封じです。辺境に追いやってしまえばいい。二度と王都レノで私の顔を見ることはなくなる。


人のいいお父様のことです。陛下がお心を痛められたと誰かから聞いてそれを真に受けた。陛下からその言葉を直接頂いたわけではない。お父様は王都レノにいないのですから。


この街の風景はもう見たくありません。カーテンは閉めたままの暗い部屋で、考えるのは故郷のことばかり。希望に満ちて王都レノの地を踏んだ私には戻れない。


メイドが心配して、私の様子をお父様に知らせたのでしょう。元気を出しなさい、卒業式には皆が待っているよ、という内容の手紙が、宝石の縫い付けられたドレスと共に届けられました。


ですが、私は出席しませんでした。


令息令嬢のメイド同士、お付き合いがあるのでしょう。メイドが卒業式の話を私に聞かせてくれました。誰がどんなドレスを着ていたとかです。懇意にして頂いていた令嬢たちが私を心配しているとか。


どの話も私の頭にはすんなり入って来ませんでした。ですが、一つ耳に付いたのはことがありました。ダリルです。新たに婚約相手となったオルグレン辺境伯令息。彼もまた、卒業式に出席していませんでした。


それから私は彼のことが気になり始めました。そういえば学校で彼と会った記憶がない。四月になれば王都を離れます。それまでに一度会ってみてもいいのではないかと私は考え始めました。日にちは数えるほどしかありません。


そう思いながら一日二日経つと、居ても立っても居られないようになっていました。私は執事に命じて馬車を用意させました。





オルグレン卿の王都別邸は執政ゴドルフィン公の屋敷に引けを取らない大きな屋敷でした。門を抜け、広い庭を走り、ローターリーに馬車を付けます。


執事と共に私たちは屋敷の前に立ちました。執事がドアをノックしようとするその前に、ドアが開かれた。


「もう来る頃かと思っていました」


私より背が低く、目がクリクリとした、例えるならフクロウのような男が立っています。


「よろしく。僕はダリルだ」


この人がダリル。私と生涯共にする人。


血の気が引いていくのを感じました。王都を出れば何もかも解決すると私は思ってた。いい当てつけです。皆、このことは知っていたのでしょう。エイミーたちの笑っている顔が目に浮かびます。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る