第3話 奇行


私へのいじめはまだ終わってない。オルグレン卿もグルだった。財力にものを言わせゴドルフィン公と話を付けた。息子に結婚相手がいないなんておくびにも出さず、傷物を引き取ってやるていで私を買った。


突然、ダリルの手が私に向かって伸ばされた。私に何かしようとしている。


ですが、その手は私の前で止まった。


これって中産階級で流行の握手? ってやつですか。紳士が淑女に? それも初対面の相手に? いくら私が自分のものになったとはいえ、私のことを馬鹿にし過ぎです。


「あ、そうか。つい癖でね」


ダリルは頭を搔きながら空になった手をズボンで拭った。


照れている? ってことですか。手をズボンで拭うなんて、他に紳士らしい振る舞いがあるでしょうに。もう帰りたくなりました。もう誰とも会いたくない。


「さぁ、はいった、はいった」


私の背に手が回されました。


背中は押され、私は無理やり屋敷に入れられました。私の執事は外に置いてけぼり。ドアが閉められます。


私は一人になってしまいました。


「ちょうど今、友達も来ているところなんだ。彼らに君を紹介したい」


はぁ? 


今、この人は友達って言った。この人に会いに来る令息がいる。私には誰もいないのにこの人に友達? 学校も行っていなく、卒業式も出ないのに? 


嬉しそうなダリル。


笑顔に嘘はないように見える。どうやら友達っていうのはホントのよう。そういえばこの人、卒業式にも出ないのにやさぐれた感じが全くない。


ひとりぼっちでないから。


よっぽどの友達なんでしょう。どういう人たちだろう。私は好奇心にかられてしまい、先に進むダリルの背中をつい追ってしまっていた。


大きなテーブルのある部屋に入りました。そのテーブルのお誕生日席に、窓を背にして令息が座っている。組んだ足をテーブルの上に放り投げていた。


やっぱり。


そういうことでしたか。かっこだけはちゃんとしているところを見るとどこかの令息のようですが、やっぱり学校で見たことがない。オルグレン卿は私の他にもお金で買った人がいた。どこかで拾って来た人にお金を渡していいお洋服を着せ、友達に仕立て上げた。


期待した私が馬鹿でした。ダリル・オルグレンはさしずめ遊び人。田舎から観光気分で王都レノに来たおのぼりさん。学校なんて初めから行く気はさらさら無かった。卒業式に出ないなんてまともな考えじゃないけれど、理由があって家を出られない私とは全然違う。


他にも三人。一人は顔に見覚えがあります。確か、チェスター・ケンドールとおっしゃいましたか。ほっとしました。まともな方もいらっしゃった。いいえ、まともとは言えないかも。


元教師。政治を批判して王立修学院を追い出されました。他に大柄な方に、細身で長身の方。どこにでもいそうな人たち。彼らについてははっきりとしている。服装もそうだけど歳が離れすぎている。間違ってもダリルの友達だと言えない。


不意に、誕生日席の令息ごとくな人が腰を上げたかと思うと私に向かって一直線に、テーブルの上を歩いて来ました。


テーブルの端で立ち止まった。私を見下ろしている。なんて恐ろしい目つき。


「これはこれは、デネット嬢。お初にお目にかかります」


テーブルの上で右足を引き、左手を広げた。そして、テーブルから飛び降りるとすぐ目の前に立つ。顎に手が触れる。私の顔が軽く上げられた。


「噂にたがわぬ美しさ。ダリルにはもったいないな」


そう言って部屋を出て行ってしまいました。驚いたのとその勢いに呑まれたのとで私は抵抗することさえ忘れてしまっていた。


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