愚連隊の紅一点、私は婚約破棄された伯爵令嬢です! 皆のカタキは私のカタキでした

悟房 勢

第1話 婚約破棄


「セシリア・ベネットとの婚約をなかったものにする!」


新年を祝うパーティーの挨拶でジョナス・ゴドルフィンが突然そう言った。当事者である私は寝耳に水である。


王立修学院は諸侯の令息令嬢が集う由緒ある学校。ジョナス・ゴドルフィンの父は臣下でありながら国家の政務を取り仕切る執政という立場でした。それもあってジョナス・ゴドルフィンは毎年生徒を代表して新年の挨拶を行っている。


その挨拶の冒頭が婚約破棄。会場を見渡せば、顔を合わせクスクス笑っている人もいれば、下を向いて笑いをこらえている人もいる。婚約破棄は私以外全員知っていた。エイミー・アシュトンだけが満面の笑みで私を見ている。


私が知らない婚約破棄を事前にエイミーだけがジョナスから聞いていた。そして、どちらの案かは分からないけど、エイミーが皆に言いふらした。こんないじめを、私はこのところずっと受けている。


ジョナスとエイミーは体を許す関係でした。偶然、二人が抱き合って唇を奪い合う姿を校舎の裏庭で目撃してしまった。別れて、とジョナスに頼みました。ジョナスは、おまえが俺に体を許さないからこうなったんだと言い放ちました。


それからジョナスも変わりました。いじめに一枚噛んでるのを隠そうともしない。令嬢たちはともかく、令息たちも私を白い目で見るようになっていた。


ジョナスはジョナスで自分の不貞を公にされたくない。元々体を許さない私への怒りもあったのでしょう。逆らえばどうなるか。私に恐怖を植え付けようとしていた。


そもそも私とジョナスの婚約はジュナスがしつこく言い寄って来て、私のお父様が口を挟み、最終的に親同士が話し合って決めた。お父様が一番乗り気だったのです。


ジョナスは金髪碧眼で成績優秀。運動も出来て将来は約束されている。婚約が決まるとお似合いのカップルだと皆が言ってくれました。私もこの人と結婚するんだなんて浮かれてしまってその気になってしまった。


皆が祝福していたなんて、嘘だったようです。ずっと前から令嬢たちは私に嫉妬していた。


婚約する前は令息たちから私の元へ毎日のように手紙が届けられていました。私を射止めるのは誰か、なんて下世話な会話が耳に入ったりもしていました。


もちろん、令嬢たちもそのことを知っています。彼女たちは令息たちの人気が私に集まるのを我慢ならなかった。私が独り占めしているように思っていたのです。その上で、私が令嬢たちの一番人気だったジョナスをものにした。


見当違いもはなはだしい。ジョナスはただ単に、お前らとは違うんだってことを他の令息たちに分からせたかった。お父様が首を突っ込まなければ私との結婚なんてジョナスは考えもしない。本当は、私と寝たと他の令息たちに自慢したかっただけ。


エイミーはというと、ジョナスの一番の理解者だった。ジョナスに私への愛はないと分かっていた。でも、嫉妬はしていた。ジョナスとの婚約が決まると他の令嬢たちの嫉妬心を焚きつけて、私を追い込んで面白がっていた。


「私はこの度、国王陛下の命によりカミラ殿下と婚約することにあいなった」


ジョナスは王族の方と結婚する。令息令嬢がお祝いの拍手をした。エイミーも喜んで拍手をしている。


これも私以外全員知っていたこと。令息令嬢から見れば、私や私の父はジョナスや執政ゴドルフィン公の邪魔していた存在。その私たちにジョナスが勇気を振り絞って絶縁状を叩きつけた。ざまぁってわけですか。皆が面白がるわけです。


お可哀そうなのはカミラ殿下。まだ十五歳。結婚は二、三年先だとしてもジョナスとエイミーの関係はずっと続く。


二人は絶対に離れられない。両方ともどうしようもなく性格が歪んでいる。彼らにしても自分たちと同じ性根の者は他にいないことを自覚している。


いずれカミラ殿下は二人の関係をお知りになるでしょう。初めはジョナスの外見や所作に騙されたとしても、あの二人の恐ろしさにおいおいと気付いていく。


でも、申し訳ありません。私はもういっぱいいっぱいです。この張り詰めた緊張感からやっと抜け出すことが出来ました。私はこんな目にもう二度と会いたくはないのです。


割れんばかりの拍手の中、私は会場を後にしました。


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